2023年 さいたま市・埼玉県人事委員会勧告について

地方公務員は民間企業の従業員とは異なり、争議権(ストライキ)や団体交渉権の一部(協約締結)が制約されています。その代償措置として、人事委員会による給与勧告の制度が設けられています。

給与勧告は、人事委員会の調査の結果により、公務員の給与水準と民間の給与水準を均衡させることを基本に行うとされています。さいたま市人事委員会は9月26日に、埼玉県人事委員会は10月19日に勧告しました。

さいたま市人事委員会勧告 → さいたま市人事委員会のHP

<公民較差に基づく給与改定等>

(1) 月例給
  • 民間給与との較差(3,684円、0.92%)を解消するため、給料表を引上げ改定
  • 行政職給料表について、若年層が在職する号給に重点を置き、そこから改定率を逓減する形で全級・全号給について引上げ改定
  • 教育職給料表⑴及び⑵については、埼玉県における改定状況等を考慮して改定
(2) 特別給
  • 期末手当及び勤勉手当を引上げ(4.40月分 → 4.50月分)
  • 定年前再任用短時間勤務職員及び特定任期付職員は、人事院勧告の内容に準じて改定

<人事管理等に関する諸課題>

(1) 健康で働き続けられる職場環境の整備
  • 長時間労働の是正
    • 健康で働き続けられる職場環境を整備するため、長時間労働の是正が急務。職員の健康保持、公務能率の向上、有為な人材の確保の観点からも、実効性のある対策が必要
    • 時間外勤務時間等がコロナ禍前の状況に戻りつつあるため、コロナ禍に伴う業務の合理化・効率化を活かした形で最適化することが大切
    • 教育職員については、負担感・多忙感の解消にも留意しながら、学校における働き方改革をより一層推進することが必要
    • 職員の勤務時間を正確に把握することが極めて重要。命令書に記録された実績と、客観的な記録による実績との間の乖離を防ぐ取組みも必要
    • ワーク・ライフ・バランスが尊重される職場風土づくりを、所属長が率先して進めていくことが必要。所属長のマネジメントを適切に支援・監督し、「実態としての長時間労働」の是正に向けた取組みを着実に進めていくことが大切
  • ワーク・ライフ・バランスの推進
    • 育児や介護と仕事との両立支援を一層充実させていくことが必要。誰がどの職場に異動しても、両立支援制度を気兼ねなく利用することができる環境の整備が不可欠
    • 男性職員の育児休業取得率については、政府目標が大幅に引き上げられたことを踏まえ、数値目標の見直しが必要。また、制度の利用により他の職員に負担が偏ることがないよう、代替として正規職員を配置する取組みを一層推進することも必要
    • 育児・介護を理由とする退職者の発生状況を継続的に把握し、状況の推移を踏まえ、必要な措置を検討するなど、育児・介護により退職を余儀なくされる職員の発生を抑止していくことも大切
  • メンタルヘルス対策
    • ストレスチェックの集団分析については、職場環境の改善を行いやすい組織単位で分析するとともに、分析結果を管理職員にフィードバックし、リスク因子の早期発見や職場環境の改善に繋げることが必要
    • 相談窓口の利用状況等を分析し、ニーズに応じた相談体制を整備するとともに、日常の健康相談先として産業医等へ普段から相談できる体制を作ることが重要
    • いわゆるカスタマー・ハラスメントに組織として対応し、迅速かつ適切に職員の救済を図れるよう、必要な制度設計等を検討していくことも重要
  • ハラスメント対策
    • パワー・ハラスメントの行為者に対しては、態様等によっては免職も含め厳正に対処していくということを明確に示すべきであり、懲戒処分の指針の改正及びパワー・ハラスメントの言動例の明示について、本年度中に速やかに実施することが必要
    • 苦情相談窓口の利用状況等を分析し、ニーズに応じた相談体制を整備するとともに、ハラスメントの被害を受けた本人だけでなく、周囲で見聞きした第三者も含め、ハラスメントを決して見逃さない環境を作っていくことが重要
(2) 人材の確保、育成及び活用
  • 人材の確保
    • 受験申込者数や競争倍率が全体として低下傾向にあり、この傾向に歯止めをかけることが喫緊の課題
    • 本委員会としては、受験者数の向上に資する採用試験のあり方を引き続き追求するとともに、情報発信の強化に一層注力。また、職員採用で競合する団体の状況を踏まえ、初任給基準について引き続き検討
    • 任命権者においては、(1)で言及した内容を十分に踏まえた上で、働きやすい魅力的な職場環境の整備に取り組まれることを期待
  • 人材の育成
    • 複雑・高度化する行政ニーズに限られた人的資源で対応していくため、高い課題解決能力を有し、意欲的かつ自律的に課題解決に取り組む職員の育成が急務
    • 人材育成基本方針に基づく人材育成が着実に推進されることを期待。また、人材育成をより実効的に推進していくためには、研修、人事配置、人事評価を効果的に連携させ、一体的・計画的に実施していくことも大変重要
    • 組織力を常に最大化し、これを将来に向けてさらに高めていくという視点も踏まえつつ、時流に即した人材育成を計画的に実施することが必要
  • 60歳を超える職員の能力及び経験の活用
    • 役職定年後の職に設定された期待役割が降任する本人と配属される所属との間で正しく共有されるよう、周知に万全を期すことが肝要
    • とりわけ、いずれの職にも業務の遂行者としての期待役割が付与されている点は、高齢期の職員を最大限活用するという観点から、特に丁寧に周知することが必要
    • また、高齢期までを視野に入れた中長期的なキャリア形成のため、研修体制や人事ローテーションの検討も重要
(3) 能力・実績に基づく人事管理の推進
  • 人事評価制度の改善
    • 能力・実績に基づく人事管理をより一層推進していくためには、基礎となる人事評価制度が、職員に納得感を持って受け入れられていることが大変重要
    • 「評価結果を人事・給与により一層反映していくために必要な公平性・客観性が担保されているか」、「組織全体の士気向上に資する制度となっているか」の2点に留意し、制度を定期的に検証することが必要
    • 必要に応じてアップデートを図り、組織の持続的な成長を促進する制度として適切かつ効果的に運用することが肝要
  • メリハリのある処遇の推進
    • 人事面では、「メリハリのある処遇の推進」という観点から人材登用のあり方を絶えず見直し、職員のモチベーションの向上と組織の持続的な成長により一層資するものとなるよう必要な措置を検討することが重要
    • 給与面では、昇給及び勤勉手当への人事評価結果の反映をより一層推進していくことが必要。これを推進するに当たっては、一部の成績優秀者のみならず、着実に本市の事務事業に貢献している多くの職員が報われる仕組みとされることを期待
    • ライン職・スタッフ職の職務・職責を踏まえた給与処遇の見直しも課題。とりわけ係長については、係の統括的責任者かつ事務事業の遂行単位責任者であるという職責を十分に踏まえた具体的な改善措置が必要

埼玉県人事委員会勧告 → 埼玉県人事委員会のHP

<本年の給与改定(民間給与との比較)>

(1) 月例給
  • 平均0.94%引上げ
  • 初任給をはじめ若年層に重点を置きつつ、中高齢層も含めて引上げ
(2) 特別給
  • 0.10月引上げ(4.40月→4.50月)
  • 民間の特別給の年間支給割合に見合うよう、職員の年間支給月数を0.10月分引上げ

<人事管理に関する報告(意見)>

(1)人材の確保、育成及び活用
  • 人材の確保
    • 人材の確保は、試験制度の見直しと情報発信を両輪で進めていくことが必要。
    • 現在、職員の定年引上げを段階的に行っているが、この間も、中長期的な視点で安定的な県政運営を進めていくため、必要な規模の新規採用を計画的に行っていくことを引き続き任命権者に求める。
  • 人材の育成
    • デジタル人材の育成も含め、職員の多様な能力獲得を促進し、その能力を活用していくことで、組織として社会、技術、業務内容等の変化に対応できる柔軟性を高めていくことが必要。
    • 職員には、大幅な変化に適応できるよう必要なスキルを獲得していくことが求められる。任命権者においては、こうしたリスキリングの必要性を認識し、全庁を挙げてリスキリングを支援していくことが重要。
  • 能力・実績に基づく人事管理の徹底
    • 人事評価制度は、任用や給与をはじめとした人事管理の基礎となるものである。任命権者により定着度合いに差はあるが、定年前再任用短時間勤務職員等を含めた職員に対する制度について、法の趣旨に沿って適切に運用することが必要。
    • より多くの職員が自身のライフプランに合ったキャリア形成を前向きに考え、主査級昇任試験に挑戦し、将来の県政の中核を担う人材となるよう取り組んでいく。
  • 女性職員の活躍と推進
    • 意思決定の場において多様性を確保するためにも、管理職登用を含めた女性職員の活躍を推進する取組を引き続き実施していくことが重要。
    • テレワークの推進や男性の育児休業取得の促進などの働き方改革と勤務環境の整備等を一層推進することが重要。
(2) 働き方改革と勤務環境の整備等
  • 柔軟な働き方に資するDXの更なる推進
    • 全ての職員が働きやすいよう、柔軟な働き方を推進していくことが重要。
    • 職場のコミュニケーション等に留意したテレワークの実施に係る適切なマネジメントや運用ルールの確保の方策について、国や他の都道府県における状況等を注視するとともに、対応を検討していくことが必要。
    • DXのセカンドステップとして業務プロセスの変革を進めることにより生み出された時間を、高齢化社会にあって現場で県民と対話しながら丁寧に対応すべき仕事や時代の変化に応じて人間にしかできない創造的な仕事に振り向けることで、よりよい県民サービスの提供と働き方の質の向上につなげていくことを期待。
  • 仕事と生活の両立支援の推進
    • 仕事と生活の両立支援は、職員のWell-being の実現を図り、組織パフォーマンスを向上させるだけでなく、優秀な人材を確保する上でも重要。
    • 男性職員の育児休業取得を促進することは、取り組んでいくべき課題。育児休業に伴う代替職員の配置等を行い、安心して希望する期間の育児休業が取得できる環境づくりを進めることが求められる。
    • 仕事と介護との両立に係り、介護ステージの変化に応じて介護休暇等の制度を活用して働き続けることができる制度の周知を図るとともに、職員に対する理解とサポートの取り組みが求められる。
    • ゼロ割振り日の設定が可能な措置を育児介護等職員以外の職員にも拡大すること等について、職場の実情等も踏まえて、国におけるフレックスタイム制の見直しの動きを参考に検討していくことが必要。
    • 国における勤務間インターバルの確保に向けた動きを注視していくことが必要。
  • 総実勤務時間の縮減
    • 時間外勤務の縮減と休暇の取得
      • 時間外勤務縮減のためには、所属長等による適切なマネジメントとともに、事務事業の見直し等を進めていかなければならない。
      • (恒常的に長時間の時間外勤務を行わざるを得ない場合)時間外勤務に係る上限規制の趣旨を踏まえ、業務量に応じた適切な組織体制や職員配置などにより対応することが必要。
      • 計画的な休暇の取得促進など、引き続き休暇を取得しやすい環境づくりが求められる。
    • 教職員の働き方改革
      • 県立学校について、業務負担をデジタル化等により軽減することや、好事例を他校へも横展開する等の支援を推し進め、部活動の在り方も含めた業務の見直しを加速化していくことが求められる。
      • 公立小中学校においても働きやすい環境が整えられるよう、県教育委員会は引き続き市町村教育委員会と連携して取り組んでいくことが必要。
      • 教職員定数を充足した上で、育児休業等の代替教職員の確保が必要。教員免許保持者向けのペーパーティーチャーセミナーや、大学生向けの彩の国かがやき教師塾、民間企業等からの転職者向けのセカンドキャリア特別選考等、教員人材の掘り起こしや確保を図る新たな取組が進められているが、一層の努力が求められる。
  • 心身の健康管理、ハラスメントの防止及び公務員倫理の徹底
    • メンタルヘルス対策を中心に職員の健康の保持・増進に取り組んでいかなければならない。
    • 職員の執務環境、特に室温の管理などに対しても、感染症対策のための換気の確保や猛暑日の増加等といった点も考慮し、適切な注意が払われることが必要。
    • 職場研修により、どういった行為がハラスメントに当たりうるかといった認識の共有や相談窓口の周知等に取り組み、ハラスメントのない、風通しの良い職場づくりに努めなければならない。
    • 不祥事防止に向けた公務員倫理の徹底と厳正な服務規律の確保を図ることが重要。

さいたま市・埼玉県人事委員会勧告についての所見

埼玉県・さいたま市ともに、月例給・一時金ともに引き上げ勧告でした。しかし改定額は、この間の物価高騰には到底及ばず、実質賃金のマイナスは続きます。日常生活で必要とされる経費を保障するものでなくてはならないという原則「生計費原則」が生かされていません。会計年度任用職員の一時金に関して、勤勉手当が支給されることになりますが、人事評価の反映について言及していることは問題です。

人事管理に関する報告では、「長時間労働の是正が急務(さいたま市)」「公立小中学校においても働きやすい環境が整えられるよう(埼玉県)」とありますが、教育現場では、すでに様々な対策が講じられています。埼玉県については、DXの更なる推進による働き方改革について言及しています。DXが働き方を抜本的に改善し、長時間労働が改善されるという主張には、疑問が残ります。

根本的に人手不足が問題の根本にあります。ただちに行うべきことは人員増です。埼玉県は「教員免許保持者向けのペーパーティーチャーセミナー」「大学生向けの彩の国かがやき教師塾」「民間企業等からの転職者向けのセカンドキャリア特別選考」等、教員人材の掘り起こしや確保を図る新たな取組が進められているが、教職員の定数増と定数内臨任を無くして正規教職員を充てることが必要です。

一方、これまでより一歩進んだ意見も出されています。ワークライフバランスやメンタルヘルス対策、ハラスメント対策については、この間の人事委員会交渉のとりくみにより、私たちの主張が表現に盛り込まれた成果と言えます。

今後の埼教組のとりくみ

今後は人事委員会勧告を受け、その取り扱いをめぐる賃金確定交渉が始まります。知事・教育長宛の賃金確定署名も始まります。

今後、とりくみが始まります。次のようなことをがんばりましょう。

  • さいたま市) 市教委交渉への参加
  • 埼玉県)   地公労交渉・埼教連交渉への参加
  • 職場で旺盛に賃金確定署名を集めましょう。
  • 交渉のたびに「賃金闘争ニュース」を発行します。必要に応じて職場で掲示・配布してください。

↓署名用紙はこちらからダウンロードできます。ご活用ください。