もくじ

Q1 「教師の教育の自由」の法的根拠について説明してください。

●教師は、子どもを教育する父母・国民の権利と責務の信託にもとづいて教育にあたっています。国民の教育の自由は、実際の教育の担い手である教師の教育の自由を必然的に要請するものであり、教師の教育の自由は国民の教育への権利の重要な一部をなすものといえます。子どもの学習権を保障する教育を実現するために、また父母・国民と直接に結びついて、国民の教育要求をくみとり、これを実現するために教師には教育の自由が保障されなければなりません。

●教師の教育の自由は憲法によって保障されています。憲法23条の「学問の自由の保障」によって教育への不当な支配が禁止されています。教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し、直接に責任を負って行われるべきものです。(47年教育基本法)

●「不当な支配」の主体としては政党、官僚、財界等があげられますが、とりわけ国家権力、公権力による教育行政がこの中に含まれます。教育行政その他の不当な支配を禁止し、教師が国民に対して直接的に責任をおっているとすることは、教師の教育権を教育行政から独立のものとして保障していることを意味します。教師の教育活動については、教育委員会等による不当な支配介入を受けないという保障を有するものでもあります。

●今日、学習指導要領の「法的拘束力」、教科書検定・採択統制、初任者研修制度をはじめとする教員管理体制等で、教師の創意性や国民の教育要求を受け入れる余地が排除されているのはきわめて問題です。これらに対し、教職の専門性を確認し、教員ないし教員団体の教育政策の策定、教育課程・教科書・教 具の開発への参加を保障するユネスコの「教員の地位に関する勧告(同勧告6・62・75項等)の実現を要求することが重要です。杉本判決(1970.7.17)は教育の自由について次のように述べています。

杉本判決(1970.7.17)(抜粋)教師の教育の自由「教師は、子どもの学習権を保障するための教育の責務を国民から信託されて、実際の教育にあたっており、必然的に真理教育が要請され、そのためには、教師は学問研究の成果を児童・生徒に理解させ、それによって子どもに知る力、考える力、創造する力を得させるのであるから、当然、教師にとって学問の自由が保障されていなければならず、同時に、教師は子どもの心身の発達とこれに対する教育的効果とを科学的に見きわめることが要請されているから、教師に対して教育ないし教授の自由が尊重されていなければならない。」「教師に教育の自由を保障することは、近代および現代における教育思想および教育法制の発展に基本的に合致し、また、わが国における戦後教育改革の基本的方向と軌を一にするばかりでなく、ことに最近における教育に関する国際世論の動向にも沿うゆえんである」「教師の教育ないし教授の自由は学問の自由を定めた憲法23条によって保障されていると解せられる。」教職の専門性(「教育労働者の権利」より)

Q2 学習指導要領に法的拘束性はありますか

●前項の教師の教育の自由と深くかかわる問題ですが、文部省(当時)は1947年、「学習指導要領・一般編(試案)」を発行した際、その序論で「これまでの教師用書のように一つの動かすことのできない道をきめて、それを示そうとするような目的でつくられたものではない。新しく児童の要求と社会の要求  とに応じて生まれた教科課程をどんなふうにして生かしていくかを教師自身が自分で研究していく手引きとして書かれたものである」とし、今後の方針として「下の方からみんなの力でいろいろと作りあげていく」としていました。つまり、学習指導要領はあくまでも試案で、教育課程は教師自身が研究し、みんなの力で作りあげるものとされていたのです。しかし、1955年に「試案」が削除され、1958年の改訂以降、学習指導要領は官報告示され、文科省は法的拘束性があるとしました。教科書は学習指導要領に準拠しなければならないとして、教科書統制も強められてきました。文部省は各教科ごとの指導書の発行、伝達講習・官制研修等を強化しています。これは教師の教育権を制約し、ひいては国民への教育の権利を制約する方向にはたらき、教育により国民を統制した過去の反省にたった視点が大切です。

●憲法に照らすならば、学習指導要領の法的拘束性を認めることはできません。教育の内容・方法は基本的に教師の教育の自由に委ねられるべき領域であり(Q1参照)、教育行政の任務は教育の内容面に支配・干渉することではなく、教育条件整備をすすめることだからです。公教育制度のもとで教育行政としてできるのは教科の種類・名称・目標・標準授業時教・卒業必要総単位などの学校制度法定主義に伴う学校制度的基準事項の「大綱的基準」の設定、指導・助言権の行使、教師の自主的な研修の機会の提供等であり、法的拘束力を伴わない形での関与であるとするのが教育法学界での通説となっています。各教科の内容やとりあげる教材等まで包括的に法的拘束性ありとすることは関係法規からみても無理があり、学習指導要領は、試案ないしは手引書として指導助言文言の性格を超えないものです。これは「学カテスト」をめぐる裁判判決でも明らかです。

学テ事件・旭川地裁判決(1966.5.25 教育基本法第10条は、教育内容について国家の行政作用(とくに強権的な作用)の介入を抑え、教育活動の独立を確保し、教員の自由な、創意に富む、自主的な活動を尊重するという理念を基礎としつつ、教育行政の任務を教育条件の整備確立においていることが明白である。学校教育法第38条等の規定をみると、同条が文部大臣に対し教育課程の第一次的、包括的な編成権を与えたものとはとうてい解されず、同条により、文部省が学校教育の内容や方法について詳細な規定を設け、教員の教育活動を拘束するようなことは、法の予想しないところだといわなければならない。むしろ同条は、初等、中等教育が義務教育であること等を考慮し、その教育課程の編成について、文部大臣が(前記の教育の独立および教育行政の地方自治等を尊重しつつ、)大綱的な基準を設定すべきものとした趣旨に解するのが相当である。したがって、学習指導要領のうち右のような大綱的な基準の限度を越える事項については法的拘束力がなく、単に指導・助言的な効力を持つべきにとどまると解すべきである。

Q3 教育課程の編成権は学校(教職員集団)にあると考えてよいのでしょうか

 ●法律上、教職員集団に教育課程の編成権があるとした規定はありませんが、憲法の原理的な規定ならびに教育条理上保障されている教師の教育の自由と教育権の内容として、当然学校の教職員集団にあると解されています。

埼玉県教育委員会が、2020年の学習指導要領の改訂に伴い、本県における「教育課程の基準」の改善にあたって作成した資料も、「小学校(中学校)教育課程編成要領」としていることにも示されています。

「小学校教育課程編成要領」教育課程一般編では次のように記しています。

第2節 教育課程編成の一般的な手順 教育課程は、各学校の校長が責任者となって編成するものである。その際、それぞれの学校の運営組織を生かし、全教職員の協力のもとにそれぞれの分担に応じて十分研究を重ねるとともに教育課程全体のバランスに配慮しながら創意工夫を加えて、特色ある教育活動が展開できるよう編成することが大切である。

●すべての子どもの成長と発達を保障する教育の実現をめざし、子どもの声を聴きとり、子どもの実態を重視して、全ての教職員の参画のもと、父母、地域住民とともに、各学校の教育課程を創ることが重要です。それぞれの学校・地域から多様で多彩な参加と共同の学校づくり、教育課程づくりを進めましょう。

Q4 「日の丸・君が代」の強制についてどう考えればよいでしょう

●学校行事における「君が代」斉唱、「日の丸」掲揚をめぐって、多くの学校で問題になっています。それは多くの教職員の反対意見を踏みにじって、校長が一方的におしつけようとするところから生じています。論議を尽くし、結論が得られそうになると、校長が「おねがい」、さらには「職務命令」までもち  出して押しつけてくる傾向が強まっています。

●「日の丸・君が代」は戦前において、絶対主義的天皇制を称え、象徴するために使われました。敗戦後は一時、学校行事から姿を消しましたが、アメリカの対日政策の転換、朝鮮戦争の開始頃から、再び天皇制と深く結びつき、反動的役割を担って、軍国主義・国家主義復活に利用されています。学習指導要領でも1958年に、「国旗を掲揚し、君が代を斉唱させることが望ましい」とし、1977年の改訂では「国旗を掲揚し、国歌を斉唱させることが望ましい」と、「君が代」を「国歌」と明示しました。1989年の改訂ではさらに踏みこんで「国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」としました。

●1998年8月、自民党・自由党・公明党などの賛成により、「日の丸・君が代」を国旗・国歌とする「国旗及び国歌に関する法律」がたった27時間の審議で成立されられました。国民主権に反し、世論も一致していないにもかかわらず、政府・文部省(当時)は学校教育に介入し、これを政治的に利用しました。しかし、その国会審議の中でも「法制化によっても国民には強制できない」こと、「内心の自由は保障されなければならない」ことを認めざるをえませんでした。

●「君が代・日の丸」問題だけに焦点をあてるのではなく、子どもを主人公にし、その行事の目的に沿って、ふさわしい内容をどうつくっていくのかを討論する中で、「日の丸・君が代」おしつけ反対のたたかいをすすめることが大切です。

子どもを中心にすえた教育的意義の高い学校行事をつくり出すとりくみを通して、教職員や父母との合意やいっそうの団結がつくられるのです。

Q5 教育基本法について教えてください

●自民、公明の与党(当時)は、2006年12月15日、改悪法案の廃案、慎重審議を求める圧倒的多数の父母・国民の声、教育現場の声を無視して政府提出教育基本法案(改悪教育基本法)を強行採決しました。

●改悪教育基本法は、何よりも憲法違反の重大問題を持つものです。第1に、第2条に「教育の目標」をおき、ここに「国を愛する態度」を入れ込んで、子どもと国民に「愛国心」を法律で強制するということです。これは、思想・信条・内心の自由を定めた憲法第19条に違反するものです。第2に、第16条で「教育は…この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」として、政治的多数決によって決められる法律や文部科学省や教育委員会の出す命令、通達によって、教育の自主性、教育の自由を蹂躙し、時の政府の思いのままに教育を統制・支配するという、憲法第13条、23条、26条に違反する大問題です。

●政府は、2018年6月15日に「第3期教育振興基本計画」を閣議決定しました。

 第3期教育振興基本計画では、「2030年以降の社会を展望した教育政策の重点事項」として、「「超スマート社会(Society5.0)」の実現にむけた技術革新が進展するなか「人生100年時代」を豊かに生きていくためには、「人づくり改革」、「生産性改革」の一環として、若年期の教育、生涯にわたる学習や能力向上が必要」としています。こうした動きは国や財界が求める「人材」育成をすすめるためのものであることをあからさまに示しています。私たちは一部のグローバル人材の育成をめざし、大多数の子どもの成長・発達をないがしろにする新自由主義的教育政策に反対し、すべての子どもの学習権を保障することを求めるものです。

●県教委は2019年9月に、教育基本法第17条を根拠に第3期埼玉県教育振興基本計画を策定しました。これは、2019~2023年度までの5年間を拘束する教育施策で、「豊かな学びで 未来を拓く埼玉教育」を基本理念とし、学力や体力の育成、家庭や地域の教育力の向上など10の目標のもとに、30の施策と155の主なとりくみを設定しています。

●教育予算や教員定数については数値目標化されない一方で、教育内容についての安易な数値目標化は避けるべきですし、その運用も慎重であるべきです。数値目標を達成するために、子どもたちが犠牲になるようなことがあってはなりません。

Q6 校長は日案や週案の提出を職務命令で強要できますか

●日案や週案などの教案を提出するように教師に命じたり、教育課程の変更を命じたりすることは、教師の教育権を侵害する違法行為といわねばなりません。職務命令が有効であるためには、職務上の上司が発したものであり、それが部下の職務に関することであるだけでなく、部下が職務上の独立を認められている場合にその範囲を侵さないことが必要です(Q82参照)。週案、日案の提出命令は、その点でも教師の固有独立の教育権を侵すことになりかねません(Q3参照)。

●しかし、年間の指導計画をもとに、1週間単位の計画、さらに毎日の授業計画を具体的にきちんと作成することは、生き生きとした学習指導を展開するうえで不可欠です。具体的な単元や指導内容をはっきりさせることは、学年や学級の通信などで父母に知らせて理解と協力を得たり、子ども自身の家庭学習を能動的にしたりすることなどもふくめて、教師の教育活動にとって重要な意味をもっている面もあります。

Q7 教師に教育評価の権限と自由はありますか

●教師は教育目標にもとづいて、教育内容を編成し、教育実践を行い、その結果について必ず評価しなければなりません。自らの教育活動の結果に対する点検と反省が教育評価であり、どのような方法で行うかは教師の権限であり、自由です。その教育評価を踏まえて、次の教育活動が準備されます。教育実践は  不断の教育評価を伴っており、教師が自主的・計画的に教育実践を遂行していく上で教育評価は不可欠です。

●人事評価にかかわって、自己評価シートの記入の際、教育評価をする方法にあたって、その達成度を数値化して記入をするように促す管理職がいる場合ありますが、上記の内容から言っても正しくありません。教育の成果は単年度で示せるものではないことはこれまでの当局とのたたかいの中で確認をするとともに、交渉において人事評価は、教職員自らが行なう「自己評価」を基本とすることを確認しています。

●正しい教育評価は第一に、学習をはじめとする教育活動の到達目標への到達度を客観的に示すことによって、子ども自身の学習意欲・活動意欲を高め、励ますものでなければなりません。

第二に、教育評価は教師にとって、教育活動を改善する手がかりとなるものであることです。

第三に、父母にも教育活動の成果と弱点をわかってもらい、父母の教育要求を正しく汲み上げられるようにすることです。

●評価には評定尺度が必要ですが、これは目標と表裏の関係にあります。子どもの権利保障の場である小・中学校で、子どもたちの学力をつける側面と情意・行動を育てる側面とで、妥当性をもつ方法を教職員集団で研究することが重要です。差別選別教育体制の下では他との優劣をつけたり、選別するための道具に変質させられたりしている面があります。「関心・意欲・態度」を「知識・理解」から切り離して点数化するなどは本来の教育評価の役割を大きく歪めるものです。本来の教育評価はそのようなものではありません。また、選別に反対する立場から、評価をすべて排除する考え方も正しくありません。

Q8 教科書採択のしくみを教えてください

●ユネスコの「教員の地位に関する勧告」では「教員は生徒に最も適した教具及び教授法を判断する資格を、特に有しているので、教科書の選択にあたって・・・・主要な役割が与えられるものとする」とあります。教科書採択は、なによりも現場教員の意見を尊重して行われるべきです。

 明治以降、教科書は有償制でしたが、経済成長を推進する池田内閣が1961年から教科書の無償化にとりくむことを決定し、1963年に「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」が公布され、これ以降義務教育の全児童生徒に無償で教科書が給与されるようになり、現在に至っています。

●義務教育教科書無償化にともない広域統一採択制度がとられ、当該教育委員会が採択することになり、教師は自分の使用する教科書を自分で選択できなくなったことは最大の問題点です。毎日の教育にあたっている現場の教員が実質的に関与できない状況は、きわめて異様であると言わざるを得ません。

●広域採択制の2つ目の問題点は、教科書発行会社の「寡占化」を引き起こしていることにあります。教科書無償化制度により、その費用は国家予算から捻出され、すべての義務教育の児童・生徒に教科書が無料で配布されています。結果的に大規模で、営業力の強い会社が有利となり、市場を占有することになる点が問題点です。

●広域採択制の3つ目の問題点は、採択された教科書は、最低4年間は使い続けなければならないという点です。たとえ良くない教科書であっても、4年間は使用しなければならないのです。教育的観点からも、使用してみて合わない教科書であれば変えることができるほうが望ましいことは明らかです。

●県内の教科書採択にあたっては、従来の「学校票」として、教科書研究にもとづいてふさわしい教科書を学校ごとに希望していました。地域によって学校ごとの希望を出せないところもあり、問題です。

●2020年の教科書採択にあたっては、日本の侵略戦争を正当化する育鵬社の歴史教科書、子どもを改憲に誘導する同社の公民教科書が各地で次々と不採択になりました。教科書採択の透明性・公開制をめざし、教育委員会会議の公開を求め、教育現場の教員の意見や調査資料を尊重し、子どもに、どの教科書がふさわしいかを、教育的な観点で採択することを要求するとりくみが各地で行われました。

●県内では、学校の教職員の意見(学校希望)の尊重、教科書展示会においての保護者や住民の意見表明の機会づくり、採択協議会の公開などがはかられました。

《義務教育諸学校用教科書採択のしくみ》

《教科用図書採択地区一覧表》   (2020年4月1日現在)

採択地区構成市町村
第1さいたま市
第2川口市
第3草加市
第4蕨市 戸田市
第5朝霞市 和光市
第6志木市 新座市
第7鴻巣市 桶川市 北本市 伊奈町
第8上尾市
第9川越市
第10富士見市 ふじみ野市 三芳町
第11坂戸市 鶴ヶ島市 毛呂山町 越生町
第12所沢市
第13飯能市 狭山市 入間市 日高市
第14東松山市 滑川町 嵐山町 小川町 川島町吉見町 鳩山町 ときがわ町 東秩父村
第15秩父市 横瀬町 皆野町 長瀞町 小鹿野町
第16本庄市 美里町 神川町 上里町
第17熊谷市
第18深谷市 寄居町
第19行田市
第20羽生市 加須市
第21春日部市 杉戸町 松伏町
第22久喜市
第23蓮田市 幸手市 白岡市 宮代町
第24越谷市
第25八潮市 三郷市 吉川市

Q9 「子どもの権利条約」の意義は何ですか

●「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約です。18歳未満の児童(子ども)を、権利をもつ主体と位置づけ、おとなと同様ひとりの人間としての人権を認めるとともに、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めています。

●「子どもの権利条約」が日本でも批准され、1994年5月22日に発効しました。1989年11月に国連総会で採択されて以来4年5か月が経過し、世界で158番目という遅い批准となりました。この条約は、今日の段階の人類英知の結晶であり、世界と日本の子どもとその教育の困難を打開するものに  させることが大切です。

●この条約は、前文と3部からなる本文で構成されていますが、最大の特徴は、子どもを“権利行使の主体”として位置づけていることです。国際人権規約で保障されている人権のうち、年齢的な制限をもつもの(選挙権など)を除き、すべての権利が子どもにも保障され、さらに子ども固有の権利保障も盛り込まれています。

例えば、「意見表明権」「思想・良心・宗教の自由」「結社・宗教の自由」「プライバシー・通信・名誉の保護」などの市民的諸権利や「休息・余暇・遊び・文化的芸術的生活への参加」のように子どもたちの成長発達に欠かすことのできない権利も保障されています。このことは、従来の「子どもは未熟だから」という子ども観の大変革を大人に義務づけているともいえます。

●1998年6月、国連「子どもの権利」委員会は、日本政府の報告書、非政府組織の報告書をもとに政府に対しての勧告を出しました。勧告の43条では、「本委員会は、貴締結国における教育制度が極度に競争的であること、その結果、教育制度が子どもの身体的および精神的健康に否定的な影響を及ぼしていることに照らし、本条約第3条、第6条、第12条、第29条、および第31条にもとづいて、過度なストレスおよび不登校を防止し、かつ、それと闘うための適切な措置をとるべきことを貴締結国に勧告する」と日本政府に対し教育制度の改善を求めています。勧告が出されおよそ20年が経過しますが、今もなお子どもたちがおかれている状況は深刻です。

●埼玉県議会でも、1996年12月議会において「子どもの権利条約の実行を求める請願」を可決しています。わたしたちは、この条約がすみずみまで生きる学校づくりをめざして早急にとりくみを強めなければなりません。この権利条約を生かした一人ひとりの教育実践や父母・地域との共同した民主的な学校づくりが求められています。

Q10 研修の制度的保障について説明してください

 ●教員は子どもたちの教育に直接に責任を負う立場から、日常不断に研究と修養を積まなければなりません。

憲法の理念を踏まえて、子どもたちの持つ可能性を引き出し、その成長を最大限に援助するためには、教育課程、教科内容、指導の方法、児童・生徒の発達過程等々について研修を深めるだけでなく、教育の理念や原理、子どもと教育をめぐるさまざまな問題に関する理解が必要であり、また子どもと触れ合うことを通じて人格的影響を与えるという教育の特質から、教員自身が人間としての豊かさを身につけることが求められています。研修は教育にとって不可欠なものであり、教員の職務の重要な一環をなすものです。

このように教育が本質的に研修を要請しているからこそ、国家公務員や地方公務員一般の研修の規定とは別に、教育公務員特例法(教特法)で教員の研修に関する特段の規定を設けているのです。

●教特法は「教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基き」(教特法1条)教員の研修について、次のように定めています。

教育公務員特例法(研修)第21条1.教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研修と修養 に努めなければならない。2.教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を 樹立し、その実施に努めなければならない。(研修の機会)第22条1.教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。2.教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる。3.教育公務員は、任命権者の定めるところにより、現職のままで、長期にわたる研修を受けることができる。

教員の研修の特質の第一は、研修の目的において、「その職責を遂行するため」とされていることです。これに対し、一般公務員の研修の目的は「職員の勤務能率の発揮及び増進のため」とされています。(国公法73条、地公法39条)

第二に、研修の実施主体についても、一般公務員の場合は「研修は、任命権者が行うものとする」(地公法39条2項)と定められていますが、教員の場合は、その任命権者に「研修施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画の樹立・実施の協力義務」(教特法21条2項)が規定される一方、21条・22条1・2項で、教員が自主的に研修を行う権利を定めています。

要するに、一般公務員の研修が「勤務能率向上のため、任命権者が行うもの」なのに対し、教員の研修は「その職責を遂行するため、自主的・自発的に、日常不断に行われるもの」が基本なのです。教育行政当局の研修における役割は、教育の自主的・自発的研修に対する条件整備、奨励・援助が第一義とされなければなりません。行政が研修計画をたてる場合は、自主的研修を補完するものとして、自主参加の原則により、教員の専門性の向上と教育実践上の必要と関心にそったものでなければなりません。

●したがって、教師個々人がおこなう読書、視察、実験、見学などによる研修をはじめとして、組合教研やサークル、民間教育研究団体の研究などは、教育行政機関によって重視され保障されるべきです。

校長は、「授業に支障がない限り」承認を行うべく拘束されており、校長に自由裁量権があるのではありません。

●ところが近年、行政解釈は研修を(1)職務命令による研修、(2)職務専念義務免除による研修、(3)勤務時間外の自主的研修に区分し、教員研修の基本である自主的研修にさまざまな条件を付けて勤務時間内に行うことに厳しい枠をはめる一方、文科省・教育委員会等の主催する行政研修を強化し、「初任者研修」「2年次研修」「3年次研修」「5年経験者研修」「中堅教諭等資質向上研修(10年経験者研修)」「20年経験者研修」「研究指定」等々、研修の押しつけを強めています。「研修に追われて子どもと接する機会をつくることがむずかしい」「研究指定も発表が終わると、その後はほとんど生かされていない。見せるための授業準備になっている。」など“研修あって教育なし”といった状況も報告されています。

教育の国家統制を強めるこれらの官制研修には反対し、研修本来のあり方である「自主・民主・公開」という三原則を踏まえた「研修権」確立のためのたたかいを職場から強めることが大切です。

●教特法では、「授業に支障がない限り・・・勤務場所を離れて研修を行うことができる」と規定されています。この場合法の主旨は「授業に支障があるかないか」です。授業に支障がなければ大いに研修をするべきだとしています。

「本属長」=校長は承認する際、承認するかしないかは「授業の支障」について判断すればよいのです。「授業」という教育計画を立てておきながら教員が勤務場所を離れてどんどん研修してしまってはうまくありません(授業があってもセンターの○○研修が出張研修になっていますが)。だから、「これでは認めない」「この書き方では認めない」など法の主旨に反することとなります。

Q11 初任者研修の問題点は何ですか

●初任者研修は、以前には新任教員研修として市町村教委主催で行われていました。当初は年間2~3回程度の教委が大半でした。1980年代後半には年間十数回位になっていましたが、それでも出張は数回で済むものでした。

しかし、1989年度に教特法が改悪され(20条の2)小学校を皮切りに初任者研修制度が本格的に実施されました。これは、新採用者の条件付任用期間をそれまでの6か月間から1年間に伸ばし、新任教員に対し、1年間の行政研修を命じるものです。これまでの教員の自主的な研修権を保障することから義務研修への転換であり、教員研修の本質に反する「国定教師作り」をねらうものです。さらに実施形態等もふくめ次のような問題もあります。

①毎週決まった曜日に機関研修があるので、研修と重なる時間帯に持ち授業をいれることができない。

②初任研のために非常勤講師が配置されるが、その任期は機関研修の行われる間だけなので、その期間外の非常勤講師の授業は必然的に自習になってしまう。

③埼教組が廃止を求めている法定外研修(2年次研、3年次研、5年次研)においても非常勤講師が配置されないために、学校全体の負担ともなってしまっている。

④機関研修を最優先させる校長・地教委が多い。(学校行事等と重なってもほとんどの場合機関研修が優先される)

このように、初任者研修には様々な問題がありますが、埼教組は粘り強く交渉をかさね、次のような改善をさせてきています。

(1)研修は憲法や法令にもとづいて行う。

(2)あらかじめ、学校で予定されている研修は、初任研の校内研修に含めることができる。

(3)初任研機関研修を縮減させ、2020年は13日に減じた。

また、初任研をはじめとする年次研修による長時間過密労働の実態を明らかにする中で、埼教連(埼教組、埼高教で構成する埼玉県教職員組合連合の略)は研修内容の改善も要求し、これまでに、公開授業の大幅な縮小、略案(公開授業時における指導案)の廃止、研修日数・時間の削減、研修報告書の削減などの改善をはからせました。

引き続き、機関研修と学校の行事が重なった時は、小・中学校の場合、校長と地教委教育長とで事前に協議を行う仕組みもあり、学校の事情を優先するよう校長から意見具申させるとりくみを強めることなどが必要です。さらに、最終的には年次研修を廃止・縮減させることをめざして運動を進めていくことが重要です。

Q12 学校運営の基本的視点として重要な点は何ですか

●学校は子どもたちに確かな基礎学力や豊かな情操、体力などをきちんと身につけさせ、自らの力で次の時代を創造できる人間として成長するのを援助することを本来の任務としています。ひとりも切り捨てることなく、その発達を保障し、子どもにとって楽しい学校、父母や地域から信頼される学校をつくることをめざしています。

●子どもと父母にとって良い学校は教職員にとってもいきがいをもって仕事に打ち込める職場です。こうした職場では学校運営の基本に民主主義が貫かれています。教育の自由と教職員の自主性が保障され、一人ひとりが創造性を発揮して、いきいきと教育実践にとりくめるようにすることが大事です。また、学校は教職員個人の自主性とあわせて、教職員集団としての一致した方針にもとづく組織された共同の活動が不可欠です。高い教育力をもった民主的な教職員集団づくりをすすめることが重要です。

●校務分掌は教育活動の展開と関連させて検討を加え、子どもの発達を保障する立場で、学校運営上必要な分掌については本人の希望を尊重して公平に分担しあうことが必要です。

事務・栄養・会計年度任用職員などとも相互理解を深め、連帯を強めることも運営の基本的視点として大切です。

●教職員集団の共同のとりくみをすすめていく上で、職員会議や学年会・教科会などの協議の場とその民主的な運営はきわめて大切です。また研修も重要な役割を果たします。おしつけ研修を排し、自主的・民主的研修を拡充する努力を日常的に追求しましょう。教育活動を組織的・集団的に検討し、すぐれた実  践を教職員集団のものに広げていきましょう。みんなで計画し、実践し、その結果をみんなで評価して、次の実践に発展させる過程が教職員全員のルールとして確認されること、つまり参加と合意と納得によって毎日の学校運営が行われることが基本です。学級、学年、教科の問題等は関係者で協議し、共通理解と協力体制がとれるよう、全員に知らせることを原則として確認することも大切です。

Q13 職員会議の性格について説明してください

●教職員の民主的な討議や交流を通して、教職員の教育活動の質を高め、学校としての調和のとれた組織的な教育活動をすすめていく上で職員会議はとても重要です。

したがって、職員会議を民主的協議の場とし、全体の意志を統一する場として、次のような点をポイントにして充実させることが重要です。

職員会議を考えるポイント

①学校運営の根幹として職員会議を位置づけ、教職員の民主的協議と合意形成の場とする。

②会議運営に民主的ルールをつらぬき、校長や教頭の主張の一方的伝達の場でなく、全員が平等の立場で発言できるようにする。

③個々人の自主性を守り、事実や実践にもとづいた討議を重視し、あくまで説得と納得を基本に一致点をみいだしていき、多数で強制したりしない。

④会議の時間は実情にあったものとする。

⑤節度ある相互批判、適切な助言をする。

●県教委は「県立学校管理規則」の改定を行い、2001年10月6日付で施行しました。私たちは、改悪された「学校管理規則」のもとでも、憲法にもとづいた民主的な職員会議の意義と位置づけ、またその在り方、職員会議の運営について、職員会議における校長の責務などについて県教委との間で、相互に確認しました。

Q14 校長及び教頭の地位・権限・職務などについて説明してください

●教職員の職務内容については、主として、学校教育法37条に規定されています。この中で、校長、教頭の職務内容については次のようになっています。

校長―校務をつかさどり、所属職員を監督する。

教頭―校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。校長に事故があるときは、その職務を代理し、校長が欠けたときはその  職務を行う。

●「校務をつかさどり]の「校務」とは、具体的にどの範囲をさすのかが問題となってきます。文科省などは、「校務」は「学校の果たすべき仕事の全体」としています。しかし、学校の果たすべき仕事は現実に多くの職種の教職員によって分担されていて、それぞれの職種の職務と権限が定められているのです。

したがって「教諭は、児童の教育をつかさどる」と定められている教育活動そのものについて、教員の権限を無視して一方的にチェックしたりすることは、  権限を逸脱した行為といえましょう。(Q1・Q2参照)

●戦前は、校長に各教科目の教授細目まで定めることを義務づけると同時に、教室におけるその実施を監督する権限まで与えていました。そのため教師に日案、週案を強要し、事後には教授集録を出させて教授成果を確認することまで行われていました。

戦後は、教育の自主性の尊重を基調として教師を教育課程の編成主体におき、教育課程の編成と実施に対する権力の介入を排除してきました。

このようなことから言っても、「校務」の内容を拡大解釈することは許されません。

●教頭の職務は「校長を助け…必要に応じ児童の教育をつかさどる」とありますから、校長の「補佐役」ばかりが強調されるのは正しくありません。

また「校長を助け…」という規定から直ちに校長の職務権限が委任され専決できると考えるのも誤りです。

一般にある者の職務を代理するといった場合の代理には「法定代理」と「授権代理」があります。

「決定代理」―法規の定めにもとづいた代理で、本来その地位にない者の行為がその地位にある者の行為と同じ法律上の効力を生ずる関係。

「授権代理」―権限をもつ機関の任意授権により生ずる代理であって代理させる者がその意思により授権するという性質上、一般にはその代理権の範囲は事務の一部に限られ、かつ臨時的であり、代理させる者に代理者への指揮監督権が保留されると解される関係。

教頭が校長の代理をするといった場合でも埼玉では、「授権代理」の立場をとることは県教委も明らかにしています。

●近年、学校教育法37条の規定をたてに授業時間を全く待たない教頭や、自習時間の担当(いわゆる補欠授業)の協力をしない教頭・校長も目立ちますが、同規定に「教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。」とあり、教頭が授業をするのはまったくさしつかえありませんし、自習時間の担当などは「学校の果たすべき仕事」の一部であると考えられるので、校長も積極的に協力すべきです。

 また、小学校現場の教頭職にあたる者で、所持免許が中学校種であることを理由に自習時間にすら入れないことを主張する教頭も目立ちます。これについて埼教組は所持免許の校種と同様の学校種への教頭配置も求めています。仮に所持免許のない教頭であっても自習監督に入ることはさしつかえないと県教委は表明しています。

教職員の定数が低くおさえられている現状かつ、深刻な未配置・未補充の問題が全県的な課題となっている中、特に小規模校では、このような協力がなければ日々の教育活動がやりくりできないのは明白です。

Q15 校務分掌、主任、主幹の地位・権限・職務などについて説明してください

●担任・校務分掌など校内人事を決めるのは校長の権限ですが、だからといって校長個人が勝手に決めるのではなく、教職員個々人の希望を聞き、職員会議などで民主的な協議を経て決めることが望ましいあり方です。

校内人事は「勤務条件に密接に関連する事項」であり、当然交渉の対象です。職場で合意点を見いだしていくことが大切です。

●1976年春、文部省は、全国各県に「任命制主任]を置くことを強制してきましたが、埼玉では埼教連(埼教組・埼高教)と県教委がねばり強く話し合いをつづけてきた結果「任命制主任」を事実上排除する確認をしました。

①「主任」を「中間管理職」としてではなく公務分掌の一環としたこと。
②「主任」の選出にあたっては、職員会議等にはかり、教職員の意見を十分きくようにしたこと。
③女子教職員を含め、なるべく多くの人に「主任」としての経験を積ませるようにしたこと。

その特徴は次のようにまとめられます。

以上のことからわかるように、埼玉では、校務分掌やその一環である「主任」を、校長などが一方的に任命して決めることは管理規則に反することになっています。

●主任手当(正式には「教育業務連絡指導手当」といい、Q57特殊勤務手当を参照)は、特定の主任に1日200円支給することによって、教職員の協力体制をこわし、教育を財界や政府の思うように支配・統制しようというものです。

●2007年に改悪教育基本法の具体化として教育関連三法の改悪が強行されました。その教育関連三法の一つである学校教育法の改悪により、「副校長、主幹教諭、指導教諭を置くことができる」とされました。改悪のねらいは、学校を管理的重層化して教育政策をすみやかに反映させることにあります。上意下達の学校運営体制、時の政府の言いなりの学校づくりです。

●改悪教育基本法の具体化の一つである主幹教諭が2009年度に設置されました。

法の改悪を受けて、2008年2月に全国人事委員会連合会(全人連)は、主幹教諭の給料表を教頭と教諭のあいだに新たな給料表として「特2級」を設定しました。主幹教諭を賃金面でも教諭から切り離して管理職化させ、学校の共同体制を壊すものです。

当時、埼玉県では300人、さいたま市で38人発令され配置されました。「新たな職」は「職の設置ができる」としながら、定数の改善は行われず、職場にとっては「従来の定数の一部を取られて主幹教諭がおかれた」状態となり、この制度は上意下達の教育体制をねらうもので、教職員の多忙化解消、子どもと向き合う時間の確保などの観点からも問題です。

●埼教連が県教委と回答・確認した概要は次のとおりです。

・「教職員の自発性、創造性、専門性が発揮されることが大切」
・「主幹教諭の校務分掌に特別な事情がない限り当該分掌に主任を置くことができる」
・「主幹教諭を想定した授業時数の軽減など特別な措置は考えていない。加配については国の動向を見守る」
・「主幹教諭が担当する校務は、当該学校の校務分掌調整の手順を踏まえて決定する」
・「主任の決定は教職員の共通理解と協力体制の確立、相互の意見交換を十分に踏まえる」
・「服務監督権は持たず、独自の指導監督権を持つものではなく管理職でない」
・「管理職候補者をもって主幹教諭とする」

●埼玉県では、2005年に県立学校に導入された「主幹」設置の際に、「教諭であり、給料表は2級である。授業や部活動も持つ。管理職登載者をあて特別な選考は行わない」と確認し、2006年以後の小中学校導入の際にも趣旨を変えないとしていました。

●県教委は「国法に位置づけられた新たな職について、・・・本県において設置が可能か検討することが必要と考える。副校長や指導教諭については、学校に研究のための相当職を位置づけた上で調査研究をおこない、その機能や具体的な効果・課題について検証していきたい」とし、2008年度「副校長」「指導教諭」相当職の調査研究協力校を8校とし、相当職を配置して研究を進めていました。その後、指導教諭の配置を断念しました。

●新たな「職」に新たな給料表を設定して賃金面で教諭と格差をつけ、管理業務を重層化することは、現在、学校が抱えている困難の克服と教育力の向上には結びつきません。むしろ、教職員の役割を管理的に固定化し、教職員の協力・共同をますます困難にします。埼教組は新たな「職」の設置に反対しています。

●マネジメント加配(主幹教諭の配置充実による学校マネジメント機能強化への対応)は主幹教諭の授業時数等の軽減(義務標準法15条4号)のための加配とされていますが、私たちは管理職ではない主幹教諭についても、教諭と同様の授業時数を受け持つべきと主張しています。

Q16 研究委嘱・指定研究、学校訪問のあり方はどのようなものですか

〈学校訪問〉

●「事務所の学校訪問は教職員の資質を高める良い機会である」と管理職や事務所はいいますが、訪問される学校では、そのための準備などで負担が大きいのも事実です。参考になるような指導がなされないという不満もよく聞かれます。

ところで地教行法48条1項には「都道府県教育委員会は市町村に対し、都道府県又は市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うものとする」とあります。事務所(県教委)はこの法にもとづいて学校訪問を行っているとしています。

しかしながら、この文面にあるとおり、事務所の指導対象は市町村教育委員会であり、学校ではありません。従って、一般に行われているいわゆる指導課訪問というものは事務所が強制的に行うことはできないのです。そこで、名目的に学校の要請を受けて行っているということにしているのです。しかも、その要請は、学校が市町村教育委員会に要請し、これを受けて市町村教育委員会が教育事務所に要請して実施するという形式になっているのです。

さらに地教行法48条2項には指導、助言又は援助について例示されています。全部で11例あげられていますが、その中には教師の児童生徒への指導方法や内容のことは一切ありません。ですから、公開授業の指導は基本的には事務所ではできないことになります。

これらのことから、事務所の学校訪問は

①形式的であるが、学校の希望で行うものであり

②訪問の内容(公開授業の有無、研究授業の有無、日程等)は学校が自主的に決めるべきものであるから

③事務所の指示どおりや、管理職の希望だけで決めるものではなく、職員の合意された内容で行うもので

④学校の教育計画、学校の職員、児童・生徒等に必要以上の負担がかからず、悪影響のない範囲で計画し実施すべきものといえます。

いずれにしても、事務所の学校訪問を教職員の力量の向上につながるもの、真に子どもたちのためになるものに改善していくことが重要です。

●管理主事訪問が近づくと、様々な「表簿」「記録」「計画」「日誌」などを整備して提出するようにと動く学校があります。どの教育委員会の「管理主事」であれ、「指導」権限があるのは、法に定めのある「表簿」のみです。これらは市町村教育委員会へ提出義務があったり、学校で保管が義務づけられたりしているものです。これらの整備の責任者は学校長ですが、校務分掌等によって教職員がその整備にあたるのは教育公務員として当然のことです。

しかしながら、「授業時数統計」「週案」「学級経営案」などは、法に定めのある「表簿」=「公簿」ではありません。学級づくりや日常の教育活動上必要なものとして作成したり活用したりすることはあっても、「管理主事訪問」の「指導の対象」とはならないものです。「学級日誌」に至ってはそれがどのように扱われているかを考えれば一目瞭然です。これら提出義務のないものは提出する必要はありません。学校長が「でも管理主事が指導を」と言ってくるのであれば、学校長が管理主事から指導を受ければいいことです。

学校教育法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十六号(抄))
第四十三条 小学校は、当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力の推進に資するため、当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする。

学校教育法施行規則(昭和二十二年五月二十三日文部省令第十一号(抄))
第二十八条 学校において備えなければならない表簿は、概ね次のとおりとする。
一 学校に関係のある法令
二 学則、日課表、教科用図書配当表、学校医執務記録簿、学校歯科医執務記録簿、学校薬剤師執務記録簿及び学校日誌
三  職員の名簿、履歴書、出勤簿並びに担任学級、担任の教科又は科目及び時間表
四  指導要録、その写し及び抄本並びに出席簿及び健康診断に関する 表簿
五 入学者の選抜及び成績考査に関する表簿
六 資産原簿、出納簿及び経費の予算決算についての帳簿並びに図書機械器具、標本、模型等の教具の目録
七  往復文書処理簿

●いわゆる指導主事訪問がまるで「計画的」になされているのが実態です。学校が「指導」を要請するから「訪問」なのであって、学校運営や学校の都合もお構いなしに、勝手にずかずかと学校に乗り込んでくるのでは「強制訪問」となって、学校の主体性はだいなしです。学校が総意として「いつ」「どのような」訪問を「要請」したのかを確認することが大切です。市町村教育委員会と教育事務所が何年も先までの「訪問計画」を立てておくなど論外です。

●訪問が決まると、「全員公開授業」とか「研究授業を3人」とか、特定の運営形式をとらなければならないかのように言われます。県教委は「特定の形式を求めない」と回答しています。そもそも学校が「要請」する訪問であれば、このような研修を行うから「訪問してほしい」とするはずです。学校が論議して行う形式で授業や協議会を催せばいいのです。どこかに、「2時間目公開授業、3・4時間目研究授業・・・」などのAパターン・Bパターンの「形式」が存在していて、これにもとづいて行わなければならないとする訪問は、県教委回答から考えて不合理なものです。

〈研究委嘱〉

●埼教組は、委嘱を精選し大幅に削減することを要求してきましたが、県教委は「最小限に限定」と回答し、市町村教委・市町村研究団体・各種団体も同様であると回答しました。研究委嘱はいっこうに減りません。ある市町村では全校が委嘱を受けているとか、ある学校は10年近く毎年委嘱を受けている場合があります。「最小限」なら委嘱を大幅に削減するよう市町村教育委員会・市町村教育研究会等へ要求しましょう。

●学校長が受けてきて「もう決まっているので」などと、委嘱が押しつけられている実態が報告されています。委嘱の決定は「応募のあった学校の中から」 決定すると県教委は回答しています。「応募」する=とは委嘱を受けたいと手を挙げることです。また、応募の際は「学校長は教職員の意向を十分配慮したもの  と理解している」と県教委は回答しています。教職員の意見を聞かず、共通理解もはからず、「応募」でなく決まったものを押しつけるでは、県教委の回答を予知することになります。

●委嘱の決定も、各学校が十分な共通理解をはかって応募で決めるなら、委嘱研究の発表も、学校が自主的に決めるものです。発表の回数・形式、研究紀要の量や様式などどこかに特定のものがあるわけではありません。他校のものを参考にしたとしてもあくまでも決めるのは当該の学校です。

●本来教員の研修は自主的・自発的なものです。目が回るほどの長時間過密な学校現場です。研修は子どもたちに返る、本当に身に付く自らが求める、学校の自主的な研修こそ有効なものです。「研修」のための「研修」で、子どもたちの理解ができなくなったり、教職員のいのちと健康が脅かされたりでは本末転倒です。教職員間の十分な論議で研究委嘱問題を考えましょう。

Q17 学力テストの実施についてどう考えたらいいですか(全国一斉学力テスト、市町村の学力テスト)

●文部科学省は、2006年6月に通知を発出して、「平成19年度から、小学校第6学年及び中学校第3学年の全児童生徒を対象とする全国学力・学習状況調査を実施する」としました(以下=「全国一斉学力テスト」)。実施する教科に関して小学校第6学年は国語・算数、中学校第3学年は国語・数学とし、「学習意欲、学習方法、学習環境、生活の諸側面等に関する質問紙調査を実施すること」、調査を実施する日時を「平成19年4月24日火曜日とする」としました。また、この「全国一斉学力テスト」に関する準備予算が2006年度29億円執行され、2007年度予算では実施にあたり66億円が予算化されました。

●いわゆる「全国一斉学力テスト」はすでに1961年から64年の4年間実施されたことがあり、当時大きな社会問題となりました。「全国一」をめざす県や地域・学校などが現れたりする中で、成績の悪い子どもを当日無理矢理休ませたり「障害児学級」に入れてしまったり、正答率を上げるために教育計画を度外視して「ドリル」「問題集」ばかりに走ったり、「過去問」のように「テストのためのテスト」をくり返したり、果ては教員が自分の担当する子どもたちに事前に答えを教えたりなど、およそ教育とはかけ離れた事態となりました。

受験競争を煽るだけでなく学校間競争も煽られました。埼玉も例外ではありませんでした。このため、文部省(当時)は、65年には20%の抽出調査に縮小し66年には3年に一度とし69年にはついに中止せざるを得ませんでした。

●本来、学習成果の定着状況を把握し、それに応じた課題を探り、当該児童生徒に合った学習活動、教育活動を組織していくことは、学校長を中心とした学校教職員の責務であり、そこに委ねられるべきことです。学校教育法や県教委の教育課程編成要領を引くまでもなく、日常の教育活動の自主性・主体性は学  校と教職員にあります。教育行政が一律にこうした「テスト」を課すことは、日々学力保障に向け教材や指導法・評価等を工夫し懸命に努力している現場の教育活動への重大な介入とならざるをえません。

●「全国一斉学力テスト」の実施は、実施の方法や公表の仕方によって、地域や学校間の競争を一層進行させ、子どもと教育の営みを歪めることになるばかりでなく、学校解体、公教育解体への道を開く危険性をもつ重大な問題です。

●現在県教委が実施している「学習状況調査」についても、反対の立場で県教委・市町村教委に対応を行ってきました。「学力の保障」「学力の向上」をすすめるためのとりくみは必要であるとしても、埼玉においては、県教委のすすめる「学習状況調査」、市町村教委がすすめる「学力テスト」、学校毎の市販の「学力テスト」、それに学校の教職員作成ないし市販のいわゆる評定のための「テスト」を受けさせるとなれば、「全国一斉学力テスト」もあわせて、二重・三重どころでは済まない数のテストによって学力に関して調査されることとなります。「重複する」ことを理由として「代替」を行うとしても3回~4回のテストで調査することとなり、ダブルスタンダートをはるかに凌ぐ状況が生まれます。子どもたちの負担はより一層増大し、それにかかる学校・教職員への負担も増加し、逆に学力向上のとりくみに支障を来すことが危惧されます。

このように、すでに40年前に破綻した手法を復活させ教育現場に強引に持ち込み、全国一律に悉皆でテストを行うことは、本来的な基礎学力の保障をすすめることや、様々な教育課題を解決しないばかりか、新たな「教育問題」を出現させ、公教育の解体や学校破壊に道を開くものであると指摘されています。

●2007年4月25日に実施された全国一斉学力テストについては、調査の内容や方法が、子どもたちや家庭の個人情報保護で重要な問題を生じさせ、埼玉県内のみならず全国各地で憂慮される事態となりました。さらに加えて、その採点が外部委託会社によって請け負われ、採点基準の不統一など多くの問題を生じさせました。

●文部科学省は、各都道府県別の結果を公表し、新聞などマスコミで報道されました。

・「家で学校の宿題をする児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

・「読書が好きな児童生徒、家や図書館で普段から読書をする児童生徒の方が、国語の正答率が高い傾向が見られる」

・「朝食を毎日食べる児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

など、「全国」「学力・学習状況調査」「分析」などと言われなくとも、毎日子どもたちと接して学習指導や生活指導に全力であたっている教職員ならみんな「実感」しているし、様々なとりくみでしっかりと認識しているいわば「わかりきった」ことが明らかにされているだけにすぎません。

一方「自尊意識・規範意識等」として、

・「学校のきまり・規則を守っている児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

・「学校調査」においては「児童生徒が礼儀正しいと思っている学校の方が、平均正答率が高い傾向が見られる」

と、子どもたちの実態を無視して、ただ「規範意識」のみを押しつけるやり方は、教育のいとなみの本質に照らして大きな問題を持つものです。

●埼教組は、各都道府県教育委員会および市町村教育委員会に対して、市町村ごと学校ごとの結果公表は決して行わないよう強く求めています。また、県内の教職員・各地域の父母・住民のみなさんと、子どもの学力についての学習と論議を広げ、子どもの学力向上に役立たない全国一斉学力テストの中止を強く求めています。

Q18「埼玉県学力・学習状況調査」はとりくまなくてはならないのですか

●埼玉県教委は、いわゆる「埼玉県学習状況調査(以下:県学調)」を中学校2年生の全生徒を対象に5教科のペーパーテスト調査と質問紙調査を実施しています。

●この調査の「趣旨」は「本県児童生徒が学習内容をどの程度身に付けているかを把握するとともに、学習に対する興味・関心などの状況を調べ、課題を明らかにして学習指導の改善を図ることにより、確かな学力を育成する」とされています。

●本来、学習成果の定着状況を把握し、それに応じた課題を探り、当該児童生徒に合った学習活動、教育活動を組織していくことは、学校長を中心とした学校教職員の責務であり、そこに委ねられるべきことです。学校教育法や県教委の教育課程編成要領を引くまでもなく、日常の教育活動の自主性・主体性は学校と教職員にあります。教育行政が一律にこうした「テスト」を課すことは、日々学力保障に向け教材や指導法・評価等を工夫し懸命に努力している現場の教育活動への重大な介入とならざるをえません。

●2020年、コロナウイルス感染拡大の影響で2019年度の3月から安倍政権による、突然の一斉休校要請が行われ、2020年度6月に徐々に学校が再開されました。こうした影響を受け、文科省は「全国一斉学力学習状況調査」の中止を判断せざるを得なくなりました。

 これにともない、埼教組は県教委に対し、県学調の中止を求めましたが、県教委は数回の延期日程を示した後に、「市町村教委に実施の判断に委ねる」とし、県学調の実施の判断を市町村教委にまる投げをする、極めて無責任な対応をとりました。

 その結果、さいたま市を除く62市町村中、58市町村が実施の判断を行いました。時の政権の学校現場や地域実態を全く配慮しない一斉休校により、学びを止められざるを得なかった子どもたちに、悉皆による調査はもはや何を図ろうとしているのか、本質的な部分も失い、慣例的に行っている姿が露呈する結果となりました。

●2021年2月10日に行った青年部交渉において、義務教育指導課は2021年度の県学調について「令和3年度調査の実施につきましては、学校により令和2年の教育課程を令和3年度に繰り越す可能性があることから、例年より約1ヶ月遅い時期の実施とし、かつ、実施期間に幅を持たせることで、市町村や学校が任意に実施日を設定できるようにしております。」と回答しました。

Q19 学校評価についてどう考えたらいいですか

●学校評議員制度、通学区の弾力化とあわせて、県教委は「学校評価システム」について、「調査研究事業」として予算化し、「学校評価システム調査検討委員会」を設置して検討をすすめてきました。県教委は委員会での検討をすすめ、「学校評価システム調査検討に関する報告」をまとめ発表しました。この報告にもとづき、県立学校で設置され実施がすすめられています。

●県教委は埼教連の主張を大枠として認め、その方向で実施要綱を策定しました。とりわけ、

①教職員と保護者、生徒による「学校評価懇話会(仮称)」が提起されていること

②双方向性を明らかにしていること

③教職員の共通理解を求めていること

④従来の「学校評価」をベースとしているものとなっていること

などは、埼教連のとりくみの到達点として評価できるものとなっています。

●外部からの特定な「学校評価」を行わせ、「特色ある学校づくり」の名の下に学校間競争に走らせることのないよう、交渉結果と確認を守らせるとりくみが求められています。こうした教育の条理と現場の実態からの提言と主張をすすめることは、県教委の積極的な対応を引き出し、子ども・教職員・父母の立場に立った制度にさせていくことができることの証明となっています。

●文部科学省は、従来の「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」について、2007年6月の学校教育法の「改正」を受けて、新たに改訂し「学校評価ガイドライン」として2008年1月に策定し、各都道府県教委に通知しました。学校教育法施行規則で、

①自己評価の実施・公表

②保護者など学校関係者による評価の実施・公表

③自己評価結果・学校関係者評価の設置者への報告に関する規定

が設けられています。

 さらに、2015年6月の学校教育法等の改正により小中一貫教育の実施を目的とする義務教育学校の制度が創設されたこと等を受け、小中一貫教育の実施に当たっての学校評価の在り方に関する記述が追加されました。

●現在、いわゆる「学校評価」については、各市町村教委、各学校において、様々な内容での評価をすすめていますが、「学校評価ガイドライン」にもとづく評価をすすめることとなれば、「学校外部評価」が先行し、教育行政による権力的な「査察」を伴うものとなりかねません。「学校評価ガイドライン」は学校評価のとりくみ参考とひて、目安となる事項が示されているものであり、学校評価を行う上で必ずしも「学校評価ガイドライン」に沿って実施されなければならないという性質のものではありません。学校の教育の自主性を守り、発展させる方向での「参加と共同の学校づくり」をすすめる中で、学校評価のあり方を模索する必要があります。

●文部科学省は、2008年度から「学校支援地域本部」事業を予算化して、3年間で全国1800の全市町村を対象にすすめています。この事業は、校長・教職員、PTAなどの関係者を中心として「学校支援地域本府」を設置して、その下で地域住民が「学校支援ボランティア」として学習支援活動や部活動の指導など地域の実情に応じて学校教育活動の支援を行うとしています。

●埼玉県教委は、2005年度から「学校応援団」づくり事業を展開しています。これも「学校支援地域本部」と同様の機能をもつ「学校応援団」を学校毎  に設置し、保護者・地域住民が学習活動、安心・安全確保、環境整備などについてボランティア活動をすすめるとするものです。

●いずれの事業も学校の教育への介入や押しつけとならないよう、本来的な子ども・父母参加の学校づくりとして機能する方向で対処することが求められます。

●学校関係者評価委員会を新たに組織することにかえて、既存の学校評議員制度や学校運営協議会の機能として学校評価を位置付けている学校も多く存在しており、新たな問題も懸念されています。(Q20参照)

Q20 コミュニテイ・スクール(学校運営協議会)について教えてください

●1970年代までは、「国家教育権」の主張する教育政策と、「国民の教育権」を主張する国民運動との二向対立がありました。「父母の教育要求」と「教師の教育権の主張」が、当時は同じ向きのベクトルを持っていました。

1980年代に入り、管理教育、体罰教育などが問題となり、学校・教師不信が目立つようになり、教師と父母の連帯関係が崩れ始めていきました。教師への攻撃が強まる一方で、父母の教育件の声高な主張が行われました。

1990年代になると、管理主義教育の破綻を契機に、学校を単位とした生徒・父母の学校参加の形態が各地で発足するようになります。こうした背景から1998年、中教審「今後の地方教育行政の在り方について」において、国家的対応として学校評議員制度が制度化されました。

●コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる「地域とともにある学校」への転換を図るための有効なしくみとされ、学校運営に地域の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていくことがその目的とされています。

 教育委員会が学校に設置するコミュニティ・スクールの主な役割は

 ①校長が作成する学校運営の基本方針を承認する

 ②学校運営に関する意見を教育委員会または校長に述べることができる

 ③教職員の任用に関して、教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述べることができる

としており(地教行法代47条の5)、①学校の基本方針への承認権、②学校運営への意見具申権、③教職員人事への意見具申権の3つを具体的な権限として挙げています。指定学校の職員の任命権者は。当該職員の任用にあたり、コミュニティ・スクールで述べられた意見具申について「尊重」する義務はあるものの、従う義務は有していません。場合によっては、任命権者にとって都合の良い人事のみを「尊重」し、都合の悪い人事については「従わない」といった危険性を有しています。さらに教育委員会による「委員任命」、「運営協議会の指定取消」、「運営協議会の規則制定」と徹底的な教育委員会による学校、教職員の監視機関としてのコミュニティ・スクールが管理されていることも大きな問題です。

●2017年、地教行法改正により、コミュニティ・スクールの設置目的に「当該運営への必要な支援」の協議が追加されるとともに、設置については「努力義務化」されました。さらに法定委員に「地域学校共同活動推進員」、あるいは「学校の運営に資する活動を行う者」が加わりました。

 2017年改正の特徴はコミュニティ・スクールの監視機関としての機能はそのままに、「運営への必要な支援」へと重心が変化したことや、「地域住民」、「保護者」の意見を反映させる機関から、これらを「活用」する機関へ変化した点にあります。

 学力向上政策への保護者、地域住民の強制参加を強いるコミュニティ・スクールは学校参加の学校評議会とは似て非なるものです。公教育を「公助」から「自助」、「共助」へとまさに新自由主義型教育改革の要として変貌させるコミュニティ・スクールに私たちは反対しています。

Q21 人事評価制度について教えてください。

●県教委は、2006年4月から市町村立・県立学校の全教職員(含さいたま市)に「新たな教職員評価システム」にもとづく人事評価制度の導入を行いました。埼教組は埼教連として埼高教とともに、①拙速な導入反対、②賃金・人事・研修などの処遇への反映反対、③段階別評価反対を基調としながら、教職  員評価の原則を提起し、子ども・父母・地域参加の学校づくりの中での評価のあり方を対置してたたかいをすすめてきました。

●埼玉県教育委員会は、11月10日に「埼玉県市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則」を廃止し、2006年4月1日から施行する「埼玉県市町村立学校職員の人事評価に関する規則」を定めました。また、規則の実施要領を策定し各市町村教育委員会・学校に周知しました。

「教職員の新たな人事評価制度」に関する埼教連と県教委の団体交渉確認事項

1.賃金・処遇との連動について賃金・処遇との連動については、今後の検討課題であり、埼教連との交渉事項である。
2.評価者評価について評価は絶対評価とし、調整後も絶対評価である。
3.教職員評価の原則として
(1)教育活動の特性を十分踏まえたシステム運用について
教育活動の成果は、すぐ現れるものもあれば長い期間かかるものもあり、また 定量的に計りがたい特性を持つことを踏まえ、競争原理による成果主義を導入している民間企業や行政であらわれているような過度の結果主義に陥らないようにするため、目標設定から評価にいたるまで教育論議が深まっていくようなシステム運用が大切である。
(2)教職員の教育活動の特性と力量向上に必要なことについて
教職員の教育活動は、その特性から教職員の自主性、共同性、専門性を尊重しなければならない。
(3)納得性を高めるため、相互の共通理解・意思疎通を基調とする制度運用について
教職員評価が学校の教育力を高め、教職員の教育的力量を高めるよう機能するためには、評価者と被評価者は、評価するものと評価されるものという対立  軸ではなく、評価をめぐって目標・困難度設定から最終評価にいたるまで相互の共通理解と意思疎通を基調とすることが重要である。
(4)自己評価を基本とすることの意味について
教職員が専門性を高め、その自らの力量を高めるためには、自らの力量を高めようとする内面的な動機が尊重されなければならない。そこで、自己評価を基本とする制度運用が徹底されなければならない。
(5)自己評価を基本とすることについて
①目標設定と困難度設定について
目標設定と困難度設定は、教職員が学校の実態から出発し、職員会議等で論  議を深め、共通理解を形成しながら決定した学校教育目標や「目指す学校像」にもとづき、分掌・学年・教科等の会議で十分論議を行う深められた内容を踏まえて設定するものである。
②面談について
面談は、相互理解を深めるために行うもので、評価者は、本人から学校運営や教育条件整備などの要望を十分聞き、評価する際も具体的な意見交換にもとづく共通理解を踏まえて評価を行う。
③評価結果を本人と共通理解を図る努力について
評価結果について信頼性・納得性を高めるため、県教委に報告する前に本人と共通理解を図るよう努力するものである。
④校長の学校運営と制度運用の在り方について
校長は、学校全体の教育力と教職員の教育的な力量を高めるため、教職員が自主的、主体的に学校運営に参加し、学校自己評価システムなどを活用し学校教育の総括活動の中で教職員が自己評価を深められるよう学校運営を行う。
4.授業観察について
授業改善を目的に、教員の専門性を尊重し行うもので、「評価基準」にもとづいてチェックを行うものではない。

●県教委は、2006年度から実施した人事評価制度について、2008年度から制度内容を改訂しました。

●2014年、地公法改訂にともなう人事評価システムの「見直し」に関する埼教連交渉(2014.12.26)において以下のように回答しました。

評価に当たって、「教職員の資質・能力の向上とチームワークづくり、学校の教育力向上」、「成果主義的な評価はなじみにくいという教員の職務の特殊性」を考慮し、「短期」で「個人の成果と報酬を明確に連動させた、いわゆる成果主義的な較差を極力つけるものではな点に十分考慮して制度設計するとともに、そのことを教職員が理解できるよう周知を行っていきたいと考えております。
(中略)
教育活動における「経験」の蓄積や「年齢」の積み重ねにより得られる豊かな人生経験は、子どもとの関わりにおいて専門性を深めるために重要なものと考えております。
また、学校における教育活動の特性として、その成果はすぐに現れるものもあれば、長い間を要するものもあることから、年度末の成果や結果だけではなく、その取組のプロセスを重視することが肝要であり、長期にわたる地道な職務貢献のように短期の評価に表れにくい要素も考慮した制度とする必要があると考えています。
また、活用にあたっては教育の特性を踏まえ、専門性を高める教職員の経験の蓄積を尊重する観点で原則として単年度の評価による昇給ではなく、複数年度の長期的な観点を入れた制度にしていきたいと考えております。具体的には、長期にわたる地道な職務貢献のように短期の評価に表れにくい要素の活用という観点から、毎年度の評価を積み上げるような仕組みを検討し、それを長期的な評価の基礎として活用する形で運用してまいりたいと考えております。
 こうした長期的な観点を取り入れ、教員の指導力や勤務実績を適切に把握し、評価をしていくことで、教職員にさらに意欲と自信を持たせることにより、資質能力の向上に努めてまいりたいと考えております。

 交渉回答が示すように、埼玉県における人事評価システム及び昇給システムは、「長期的な観点」から評価及び活用の制度設計となっています。そのため、制度の構造上、単年度任用を前提(原則)とした職員に適用することは原則的にできない制度になっています。このことは、2018年度の再任用短時間職員・臨時的任用職員・任期付職員への人事評価の実施に関する交渉においても、解決することのできない矛盾として焦点化した問題でした。そのため、県教委は、人事評価実施要領と区別した「別枠運用」を新たに導入せざるを得ませんでした。

●2020年度は地公法改定による新たな人事評価システムが施行されてから6年目、再任用短時間勤務職員・臨時的任用職員・任期付職員への人事評価が拡大されて2年目を迎えていますが、各学校の実態には運用上の課題がまだまだあります。とりわけ「別枠運用」については深刻な実態であり、定着には程遠い状況にあるのが現実です。

●新たにスタートした会計年度任用職員制度(Q22参照)への人事評価の実施は、埼玉県における人事評価システム及び昇給システムの運用を混乱させるものであり、これまでの交渉結果を踏まえても認められるものではありません。2020年度の埼教連交渉において、私たちは当局から以下のような回答を引き出しました。

「人事評価システム及び再任用職員の処遇改善に関する二次要求書」に基づく埼教連交渉回答(抜粋)

  本県の人事評価システム及び昇給システムは、教育活動の特性を踏まえて「長期的な観点」から制度設計されたこれまでの経緯については認識しております。従事する職務の性質の違いから、会計年度任用職員の人事評価の取扱いを別に定めることとします。
  現行人事評価システムから完全に独立した制度・運用とし、埼玉県立学校会計年度任用職員の人事評価実施要領並びに埼玉県市町村立学校会計年度任用職員の人事評価実施要領を新たに定め、運用することとします。 

「多忙化」解消・負担軽減の観点から、最大限簡略化した制度・運用とすることを当局に対して強く求めるとともに、人事評価・再任用問題等に関わる内容は引き続き丁寧に協議することを求めています。

Q22 会計年度任用職員制度について教えてください

●2017年の地方公務員法の改正により、これまでの臨時的任用職員や一部の非常勤の特別職員は、2020年4月から「会計年度任用職員」としての任用が始まりました。

 会計年度任用職員は、地方公務員法第22条の2の規定に基づき任用される非常勤職員であり、これまでの臨時的任用職員や非常勤の特別職員と比べて、休暇、福利厚生、手当等の拡充がされるとしていますが、「会計年度」に限った任用(雇用)が法制化されることから、低賃金・低待遇の上に、いつでも首切り自由の無権利職員がさらに増大することが危惧される一面もあります。さらに、服務規律(守秘義務や職務に専念する義務等)が適用され、かつ、懲戒処分等の対象にもなります。

●2019年、埼教連「2019年度賃金・労働条件等に関する重点要求書」にもとづく交渉で会計年度任用職員制度への移行について、県教委は「総務省により限定された職については特別職非常勤職員、それ以外の職については会計年度任用職員の職にそれぞれ任用する制度に移行します。」と回答し、以下のように整理をしています。

会計年度任用職員制度への移行に向けた非常勤職員・臨時職員(学校配置)の職の整理一覧(抜粋)
これまでの分類職名具体的な業務内容新制度への
移行の内容
担当課
特別職非常勤非常勤講師非常勤講師の業務会計年度任用職員
(一部、報償費対応)
県立学校人事課
小中学校人事課
特別職非常勤障害者非常勤職員事務補助、環境整備業務補助の業会計年度任用職員県立学校人事課
小中学校人事課
特別職非常勤障害者就業補助員障害者非常勤職員の業務監督、業務補助及び支援会計年度任用職員県立学校人事課
小中学校人事課
特別職非常勤部活動指導員部活動における実技指導、学校外での活動(大会・コンクール・練習試合等)の引率等会計年度任用職員保健体育課
高校教育指導課
特別職非常勤スクールカウンセラースクールカウンセラーの業務会計年度任用職員生徒指導課
特別職非常勤スクールソーシャルワーカースクールソーシャルワーカーの業務会計年度任用職員生徒指導課
特別職非常勤教育相談員生徒、保護者、教職員等に対する教育相談や情報提供等の支援会計年度任用職員生徒指導課
臨時職員産育引継賃金職員産休・育休代替職員の引継対応報償費対応県立学校人事課
小中学校人事課

●2019年度の地公労(地方公務員労働組合共闘会議)賃金確定交渉では、会計年度任用職員制度が施行される2020年4月以前(2019年度)に非常勤講師として勤務していた方で、2020年度の報酬月額が2019年度を下回る場合、2020年4月から6月までの間、2019年度と同額とする経過措置を要求し、実現させました。さらに、病気休暇(私傷病)については無給で10日の日数を90日まで拡充させました。

●2020年度の地公労交渉では、会計年度任用職員の通院休暇、通勤緩和休暇について、有給休暇を実現させました。さらに夏季休暇については週1日の勤務を除き、全ての職員に最低3日を付与する(また、非常勤講師の発令を合算した勤務日数に応じた夏季休暇を付与)ことも実現させました。

●会計年度任用職員制度については、これまでのたたかいの中で、上記のように埼玉県では無給ではあるものの90日という長い期間を獲得し、雇用を継続するという点では一定の前進です。しかし、有給休暇でなければ、当事者は安心して休むことはできません。この点について、引き続き改善を求めています。

●県教委は2021年度から会計年度任用職員への人事評価を実施したいと逆提案を示しました。これに埼教連として交渉を重ね、また、これまでの交渉の経過も踏まえ、会計年度任用職員については、現行人事評価システムから完全に独立した制度・運用とし、埼玉県立学校会計年度任用職員の人事評価実施要領並びに埼玉県市町村立学校会計年度任用職員の人事評価実施要領を新たに定め運用することと、その内容については可能な限り簡略化を図り、負担を極力減らした形で実施することを確認しました。

●会計年度任用職員制度については制度化されたばかりであるがゆえに、その処遇や賃金・労働条件が市町村によっても格差があることが全国的にも問題として挙げられています。埼玉県内においては、2020年12月東松山市の学校事務補助として勤務する市費採用の会計年度任用職員に対して、東松山市教委から財政難を理由に一方的な賃金・労働条件引き下げ提案を示しました。これに対して埼教組比企単組、比企労連が交渉を行い、白紙撤回させました。さらに第2回目の交渉では勤務条件の改善を求めた交渉を行い、有給休暇の獲得、残業代の支給等を獲得、昇給を認めさせました。

Q23 育児休業代替(任期付職員)について教えてください

●育児休業代替任期付職員(任期付職員)は育児休業を取得する職員の代替として勤務する職員で、正規職員と同様の職務に従事します。

 任期が定められていることを除き、勤務条件(給与、勤務時間、休暇、服務等)は、原則として正規教員と同等の扱いになります。ただし、育児休業を取得することはできません。

●2019年、「2019年度賃金・労働条件等に関する重点要求書」もとづく埼教連交渉において、本務者の育児休業期間が1年を超える場合、育児休業の代替職員等については、任期付職員としての任用とし、複数年にわたって同一校に配置することができるように改善を求め、実現させました。

Q24 「指導不適切教員」の研修制度、「職務遂行能力不足職員」の研修制度はどのようなものですか

《指導不適切教員》

●中央教育審議会は、1998年9月に「地方教育行政の在り方について」と題する答申を行い、地方教育行政に対する「規制緩和」と学校への「管理統制」を貫徹する方針を打ち出しました地方教育行政の在り方を定めた「地教行法」の中に「不適格教員」の転・免職を盛り込む改悪案が強行されるなど、大掛かりな「国策」として導入がすすめられ、教育行政の権限強化と併せて、安上がりな教育、そのための教職員のリストラ法と言わざるを得ない教職員の切り捨て政策が打ち出されました。

●埼教連は制度導入にあたって、次の確認を行いました。

(1)「指導力とは何か」を問う中で、「指導力は集団性と共同性がある」ことを明言させ、個人の問題に帰結させない確認を行わせました。

(2)教育困難打開に向けて「学校の教育力向上」が課題であることを主張し、校長は「校内の協力体制」を確立することが不可欠であることを認めさせました。

(3)制度導入にあたって、いわゆる「指導力不足教員」を「特定するものではないこと」また、市町村教育委員会・学校長によって「恣意的な運用を行わないこと」を明言させました。

(4)制度の運用にあたって、本人はもちろん本人以外の教職員の意見も聞くことを制度上明らかにさせました。

(5)「教育上の指導困難を抱える教員」について具体的に明らかにし、いわゆる「指導力不足教員」の概念について限定させました。

①子どもなどの状況によって指導困難となった場合は、様々な手だてを講じて支援を行う。

②病気が原因で指導困難となっている場合、勤務軽減措置やメンタルヘルスで対応する。

③障害を持ったために困難な場合は、施設・設備及び人的配置等の配慮を行う。

④セクハラや体罰など反社会的行為については現行法制度に基づき厳格に対処する。

⑤上記のほかに様々な措置を講じた上で、特別な配慮が必要とされる場合は、個別の対策を講ずること。

●こうしたとりくみの結果、いわゆる「指導力不足教員」として認定された場合、職場を離れて1年間の研修を行うとする「指導力不足教員に関する要綱」が制定され、2001年7月より施行されました。また、埼教連の要求によって、要綱の施行に伴って県教委は「指導力不足教員に係る人事管理制度について」と題する通知(以下=「通知」)を発出しました。これら要綱・通知には、埼教連交渉で確認した到達点を各所に盛り込ませることができました。

県教委は「なによりもまず、指導力不足教員を出さないことが肝要である」と報告し、「通知」では「本制度の実施に際しては、恣意的に指導力不足教員の特定を図ることなく適正な運用に努めることが肝要である」と結んでいるように、この問題は、職場でいわゆる「指導力不足教員」を出さないために何が求められるのかが問われています。

●この制度は、2005年度に見直しが行われ、

①「指導力不足教員」に対する研修期間に短期間(6ヶ月)を設ける。

②「児童生徒を適切に指導できない教員」に対する指導・助言を行う際に県からも何らかの支援を行うこと。

③「指導力不足教員」の認定の解除を判定会議で行うこと。

などの内容で要綱の改定が行われました。

●2007年に「教育公務員特例法の一部改正」が成立、公布されました。その概要は「指導が不適切な教員の人事管理の厳格化」であり、埼玉県で運用し実施している「指導力不足教員の研修制度」にも大きな関わりがあるものでした。とりわけ、「任命権者は…指導の改善が不十分でなお児童等に対する指導を適切に行うことができないと認める教諭等に対して、免職その他必要な措置を講ずるものとする」(25条の3)とされています。

●埼教連は県教委と交渉を重ね、従来の「指導力不足教員に関する要綱」を法「改正」を受けて、「指導が不適切な教員に関する要綱」と改定しました。

①県教委がこれまでに示してきた「学校の協力体制づくりが必要」「指導力不足教員を特定することを目的とするものではなく、何よりもまず、指導力不足教員を出さないことが肝要である」、「恣意的に指導力不足教員の特定を図ることなく適正な運用に努めることが肝要である」とした立場を堅持すること。

②県教委として指導力不足教員を出さないために、教育条件の整備と労働環境の改善について全力であたること。

③指導力不足教員に対して処遇に関わる「分限処分」「退職強要」「査定昇給」等と関連させた取り扱いは行わずに、慎重な対応をすること。

上記のことを確認したうえで、要綱を策定し運用することとなりました。

《職務遂行能力不足職員》

●県教委は2007年度に、県立学校及び市町村立学校の行政関係職員(小中学校においては学校事務職員・学校栄養職員)に係る「職務遂行能力を十分に発揮できない職員に関する要綱」を定めて、2008年度より運用を行いました。

●制度の内容は、

①年度当初に、「職務能力不足」「意欲不足」「勤務態度不良」等のため、職務遂行に支障が生じている学校事務・栄養職員を、校長からの報告にもとづき、県教委に申請をする。

②県教委に設置された「職務遂行能力審査会」が認定をする。

③指導・研修が必要と判定された職員は、学校内などで「研修」を受ける。研修は所属長(校長)が計画を立てて実施する。

④研修終了後に、研修状況の報告にもとづいて「職務遂行能力審査会」が、認定解除(職場復帰)、指導継続(引き続き研修を受ける)、退職勧告等を行う。

とされています。

●県立学校、市町村立学校における職員は、学校事務、学校管理、学校図書管理、給食業務等々において重要な役割を担い、日々その職務遂行に励んでいます。近年、長時間過密な労働の状況は、教員ばかりでなく行政職員、学校事務、栄養職員も、時間外勤務の増、仕事の過密化がすすんでいます。これによる病気休職者、精神疾患の罹患も生じています。「職務に関する能力」「仕事に対する意欲」「勤務態度」などについて何をもって「支障をきたす」と判定するのかまったくあいまいです。

●審査会の構成や審査の基準、認定の是非の基準なども不明朗なものとなっています。校長が、学校事務職員の仕事の細部について理解しきれるのでしょうか。栄養職員の仕事の専門性に対して「能力不足かどうか」「意欲があるかないか」など判断できるのでしょうか。また、「指導」「研修」となったら、実  際に「何を」「どのように」指導できるのかが全くあいまいなままです。

●制度では、改善が見られない場合は、指導力不足教員の研修制度にはない「退職勧告」ができるとされていることも重大です。さまざまな手だてが講じられず、教育条件や勤務条件の整備が行われない中で認定され「退職勧告」まで行えるとなれば本人の一生の問題となります。

●埼教連は交渉を行い、要綱策定の撤回を求めながら交渉回答を確認しました。

①申請にあたり、恣意的対応を行わないことを保障するよう、様々な機会での本人との共通理解をはかること。

②職場において様々な手だてを講ずることや、集団的な検討をすすめること。

③認定にあたり病気・障害・非違行為等は対象外とすること。

④「退職勧告」は行わないこと。

などについて制度の適切な運用を求めています。

Q25 障害児教育について教えてください

●学校教育法等一部「改正」で、2007年4月より「特別支援教育」が本格的にスタートし、小~高での通級指導教室、高校内分校も設置されました。いままでの障害児学校や障害児学級が対象としていたものに、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥性障害)、自閉症スペクトラム症など発達障害の子どもたちを加えた形で特別支援教育と規定しました。法律上は盲・ろう・養護学校から特別支援学校、特殊学級から特別支援学級へと名称変更され、制度と役割が変わりました。

●わたしたちは、新たにLD、ADHD、自閉症スペクトラム症の子どもたちを含めて、すべての子どもたちの豊かな発達を保障する教育が必要であることをふまえて障害児教育と呼んでいます。国・文科省は障害児学校を特別支援学校とし、全ての障害種を対象とする学校に変えようとしていますが、それでは障害の軽減・克服も含め、障害に応じた専門的な教育の保障ができません。また、障害児学級を特別支援学級にして、発達障害の子と既存の障害児学級が対象としていた子を教育する場にしようとしています。新たな教員配置も条件整備も行おうとしていません。全くの安上がり政策そのもので、障害児教育の後退をまねくおそれもあります。その点を踏まえて、障害児教育と特別支援教育と区別して使用します。

〈特別支援学校〉

●学校教育法の一部改正で、次の3つの新たな役割が障害児学校に求められることになります。

①地域の障害児教育の支援等をおこなうセンター的機能

②障害児学校の多様な障害種に対する専門的機能

③通常学級に在籍するLD、ADHD、自閉症スペクトラム症など発達障害の子どもたちへの特別な教育支援の機能

しかし、こうした新たな役割を果たすうえで当然必要な教職員配置が法律上も予算上も制度化されていません。

●特別支援教育体制への移行は、LD、ADHD、自閉症スペクトラム症など発達障害の子どもたちの教育が注目されるなどの積極的な側面があります。しかし、基本は各学校の教職員の努力にまかされ、多少の教職員加配があっても地方自治体の負担によることになります。LD、ADHD、自閉症スペクトラム症など発達障害の子どもたちを教育の対象にすれば、新たに現在の4~5倍(国の調査では6.3%、埼玉県では10.5%の在籍)の人数の子どもたちが障害児教育の対象になります。にもかかわらず、国と埼玉県ではそれに見合う抜本的な教職員増や予算措置を怠り、現場の混乱を増幅しているのが実態です。

●2006年10月から本格施行された障害者自立支援法は、原則1割の応益負担が導入され、各地で施設からの退所や利用日数の抑制が起きるなど障害者の自立が阻まれ、障害者の生存権そのものが脅かされています。障害児教育も同様です。特別支援教育体制への移行も、基本は「教育の論理」よりも「コストの論理」が優先されてすすんでいます。一人あたりの教育費が健常児の「10~11倍」であることがことさら強調され、「障害児教育の目的は『タックス・ペイヤー』(納税者)を育てること」などということが公然と語られています。すでに一部の自治体では特別支援教育の先取りとして、障害種を越えた特別支援学校に再編することで教職員を大幅に削減し、障害児学校においては担任教員を大幅に減らし、地域支援担当教員に回すなどの事態が起きています。

●特別なニーズが必要なすべての子どもたちを視野に通常学級も障害児学級も通級指導教室も障害児学校もそれぞれの学習の「場」が充実し、連携した支援体制の確立が求められています。障害児教育の教育条件は現状でも極めて不十分です。今こそ、保護者・父母、教職員、関係者が子どもを「真ん中」にしっかり手をつなぎ、「権利としての障害児教育」、2006年12月国連総会で採択され、2008年5月国内で発行した「障害者の権利条約」で掲げる「インクルーシブ教育」を大きく発展させることが求められています。

〈インクルーシブ教育〉
 インクルーシブは「包含する」という意味があります。インクルーシブ教育の範疇は、決して障害のある子どもではなく、母国語が話せない子、帰国子女、外国籍の子、貧困で学校に行けない子、等も含まれます。
 障害児教育の場合は、障害のある子どもたちが、障害のない子どもの教育に含まれる、という状態をさすように理解する場合があります。極端に言えば障害のある子が「通常の学級で学ぶ教育」を指すと理解する場合です。しかし、これは正しくありません。障害を軽減・克服するなど障害そのものへのとりくみ、専門的な教育の保障やさまざまなサポート、バリアフリーを保障する施設・設備、使用する教材・教具の配慮、科学的研究と実践で深められた指導法・指導理論の導入、医学的な最新治療の導入、障害のある子自身の自己理解等が、その教育の中身として求められます。
 同年齢の人と同等の社会参加が保障される配慮が必要ですが、やみくもに「包含」されればいいのではありません。普通教育のなかで障害に応じたインクルーシブ教育が追求することが重要になります。

●地域に根ざし、障害種別の専門性を大切にする障害児学校を基本として、私たちは障害児学校の設置にあたっては各障害に応じた専門的な実践の蓄積を大切にすることを主張しています。安易に障害種別を超えた総合的な学校にすることなく、障害種別の専門性を大切にします。地域の事情で総合的な障害児学校を設置する場合にも、障害種別に「部門」を設けるなど障害種別の専門性に配慮する必要があると考えます。

●わたしたちは、発達障害をもつ生徒の居場所(安心して過ごせる場、自己肯定感が育てられる場)と学習権保障(将来の自立に向けての力量が育てられること)が統一的に保障される必要があると考えています。そのために、行政の責任で、発達障害の生徒が学ぶ多様な場での公的な責任による教育条件整備と教育課程の充実が必要です。

●病気による入退院を繰り返す子どもたち、難病の治療で長期入院や在宅治療を必要とする子どもたちの教育を保障するうえで、訪問教育の充実が欠かせません。教員の訪問に要する時間短縮や訪問回数を増やすためにも、教員の配置をはじめ、訪問教育を実施する学校種を障害児学校に狭めることなく、地域の障害児学級でも実施していくことが必要です。

〈特別支援学級〉

●特別支援学級と名称変更されたものの、学級制度を維持させることができました。国・文科省は「特別支援教室構想」といって、障害児学級を「特別支援教室」(通常学級に籍を置いて、障害に応じた教育を新たな通級の方法で受ける)へ変える方向を打ち出しています。

これからも、障害をもつ子どもたち一人ひとりにゆたかな教育を保障していくために、安心して関われる集団と発達段階に応じた生活と学習が行なわれる「発達の場」としての障害児学級をいっそう充実させていくことが求められます。また、埼玉においては身近な学校で障害児学級の教育が受けられるように、全校に設置させることも必要です。

Q26 通級指導教室ではどんな子どもを対象にしていますか

●通級指導教室は、通常学級に在籍しながら言語障害、自閉スペクトラム症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの障害をもつ子どもたちに週数時間、障害に応じた教育を行う場です。通級指導教室が設置された学校の子どもが通う校内通級と、他校から設置校へ通う校外通級の二通りがありますが、埼玉では設置校が少ないため、大半は校外通級となってしまいます。この通級指導教室で学ぶ子どもたちも年々増えています。

●特別支援教育にかかわって、通常学級に在籍するLD、ADHD、自閉スペクトラム症などの発達障害の子どもたちの教育が喫緊の課題とされ、新たに通級指導教室の対象とされました。しかし、現状の通級指導教室は担当教員が多くの子どもたちを受け持っているにもかかわらず、発達障害に専門的に対応する通級指導教室や担当教員を増やさないまま対応させようとしています。これでは、発達障害の子どもたちへの適切な教育や通級指導教室での豊かな教育を望むことはできません。発達障害を含む特別なニーズをもつ子どもたちの通級による教育を充実させていく上から、通級担当教員を増やし、身近な学校で課題にかなった通級の教育を受けられるようにしていくことが必要です。

●国は2017年度より、通級指導教室担当教員を10年間かけて基礎定数化させるとしました。2019年9月、県教委は「通級による指導の教員配置事項」を発出しました。発達・情緒障害は児童生徒数13~25人で教員1人、26~38人で2人、39~51人で3人としました。

 義務標準法では、「児童生徒13人につき教員1人」となっているのにも関わらず、県教委は13人未満の教室の設置を認めませんでした。このことにより、早くから子ども集めがされる弊害が起きています。

●通級指導教室に通う子どもたちは、通常学級で友だちとうまく折り合いをつけられよう指導を受けています。そのため、通常学級の学級運営がどんな仲間も受け入れられる状況であることが望まれます。現状の通常40人学級では担任が一人の子どもたちに目が届かず指導しきれないという悩みもきかれます。そのため少人数学級になることが発達障害の子どもたちが居やすい学級になっていくと考えます。

Q27 教員免許更新制の問題について教えてください

●免許更新制度は2007年6月の改正教育職員免許法の成立により、2009年4月1日から導入されました。

●免許更新制のポイントを次のように説明しています。

 ①最新の知識技能を身につけること

 ②2009年4月1日以降に授与された教員免許状(新免許状)に10年間の有効期間が付されること

 ③2年間で30時間以上(必修領域講習6時間以上、選択必修領域講習6時間以上、選択領域講習18時間以上)の講習の受講・修了が必要

 ④2009年3月31日以前に免許状(旧免許状)を取得した者にも更新制の基本的な枠組みを適用する。

●おおまかな免許更新の流れは次のようになります。

 ①有効期間の満了の日を確認。もしくは最初の修了確認期限を確認する

 ②受講資格を確認

③各自が文科省や大学のホームページ等を確認して、受講したい免許状更新講習を選択(対面式講習とインターネット等を活用した通信式講習の2種類がある)

 ④各自が各大学等に受講を申し込み

 ⑤各大学等で免許状更新講習を受講

 ⑥講習の過程を修了

 ⑦県教委(免許管理者)に免許講習修了確認の申請を、修了確認期限の2ヶ月前まで(1月31日)に行う

ここまでを全て各自で行うのです。つまり教員の「自己責任」ということです。

 ⑦免許管理者が免許講習修了確認を行い、有効期間更新証明書または更新講習修了確認証明書を発行

 ⑧次の有効期間満了日または修了確認期限(10年後)まで有効

●年間およそ9万人以上の教員が対象となるのに財政的な裏づけはなく、受講料や交通費、宿泊費などは自己負担になります。また開設講座の数も少なく、常にホームページを検索しチェックしなくてはなりませんし、開設している大学によっては遠方に出かけることにもなります。

●埼玉県では2020年度現在、深刻な育休、産休、一月以上の病休等による代替が見つからない、「未配置・未補充問題」が全県的な問題となっています。代替申請をしても代替者が見つからない要因の一つにこの免許更新制度が挙げられます。

 中央教育審議会初等中等教育分科会新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会 関係団体ヒアリングにおける教員免許更新制に関する意見(抜粋)では、以下のような各団体からの意見が挙げられました。

全国特別支援学校長会(2020年10 月 28 日特別部会)

教員免許更新制度は、教員の大きな負担になっている。また、代替職員等を探す際に、免許を更新していないために採用できないことも多い。教員免許更新制度については、ぜひ、 総合的に見直しを検討して頂きたい。 


全日本教職員組合(2020年10 月 29 日特別部会)

員未配置の要因のひとつであり、教員の負担増となっている教員免許更新制度は廃止すべき。教員免許更新制が教員の多忙感を増大させ、未更新者が教員未配置の要因となっていることはあきらかである。また、教員の更新講習に係る負担は大きい。ただちに教員免許更新制度を廃止すべきである。

 2020年12月21日、「2020年賃金・労働時間等に関する基本要求書」に基づく埼教連交渉の最終回答において、「未配置・未補充」の問題に関して県教委は「あってはならない重大な事態であり…(中略)…県教育委員会といたしましては、機会を捉え、免許更新制に関する皆様のご意見を国の担当者に伝えるとともに、未配置・未補充の解消に向け、これまで以上に取り組んでまいります。」と回答しています。

 教員免許更新制は深刻な教員不足を起こしかねず、特に埼玉県では臨時的任用教員率や臨時免許発行数に目を向ければ、教育の未来にかかわる大問題でもあります。引き続きこの制度の廃止を強く求めていきます。