Q96 学校事故で、教職員に不利益が及ぶことがありますか
●学校事故では、教職員個人に対して発生原因・経過によっては損害賠償責任、懲戒責任、刑事責任の3点が問題となり、不利益が生ずることがあります。
これらはそれぞれ異った目的をもっており、3つの責任を同時に負わなければならないものではなく、また逆に、懲戒処分を受けたからといって刑事責任を免れるというものでもありません。
①損害賠償責任-金銭等での損害賠償の場合
公立学校の事故の場合は、通常では国家賠償法(国賠法)1条1項により直接の損害賠償責任は国または自治体が負うので教職員個人の賠償責任はないとしています。しかし、国賠法1条2項は「公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体はその公務員に対して求償権を有する」と定めています。したがって、このような場合は被害者からではなく、当局が支払った損害を求償されることがあります。もちろん、故意又は過失などなく普通の教育活動上の事故については問題となりません。
②懲戒責任-懲戒処分の対象となった場合
地方公務員法29条1項2号は、教職員の故意・過失によって事故が発生した場合、職務上の義務違反として懲戒処分の対象ともなりうるとしています。しかし、懲戒は職務違反に対して職務上の秩序維持の観点から課せられる処分であるため、損害賠償認定上必要な過失があるからといって直ちに懲戒処分が 正当化されうるものではないことは当然です。
③刑事責任- 業務上過失致死傷害などの場合
水泳訓練中の事故、登山、キャンプ、クラブ活動、施設・設備の欠陥、懲戒、体罰などでこれまで刑事責任に問われた例があります。この場合のケースでは事前の現地調査など周到な準備や気候状況、児童・生徒の体力などを考慮せず無理におこなった場合であり、人の注意力をもってしてはとうてい予見しえず不可抗力というべきものについては過失責任を問われることはないと考えてよいでしょう。*関係法規-国家賠償法・地方公務員法
Q97 労働(公務)災害について教えて下さい
●労働(公務)災害とは
業務上の事由又は通勤途上で、負傷、疾病、障害、死亡などを受けた場合の災害のことで、休憩時間を含む全ての労働行為に対してその対象となり、出張中の災害なども含みます。近年は過労死や自殺もその要因が、使用者の支配下によるものと認められた場合、労働災害として認定されるようになりました。
ただし、業務として強制されない(使用者の支配下にない)事業所外での懇親会等は労働災害に含まれず、またその場への行き帰りの際の事故も通勤途上災害とはならない場合があります。また、第三者の犯罪行為や戦争、内乱も同様の取り扱いとなります。
●教職員の労働(公務)災害について
地方公務員である教職員は業務上の負傷、疾病、障害、死亡に関する補償の規定については、「地方公務員災害補償法」という法律で定められており、その給付は「地方公務員災害補償基金」同法第3条の規定により設けられた各都道府県の地方公務員災害補償基金により各種給付が行われます。また、発生した労働災害に関して、管理者責任は問われません。これは、法の趣旨が災害者の救済を第一義的にしているためです。
●公務災害補償申請の流れ
認定給付を受けようとする場合には、地方公務員災害補償基金に認定請求をします。埼玉県の場合は総務部人事課内に地方公務員災害補償基金の支部があります。
●決定に不服がある場合には
基金の支部長が行う補償に関する決定について不服がある場合には、支部審査会(支部に設置。地公災法52条)にたいして審査請求をすることができます。(同法51条2項)
審査請求の期間は、支部長の決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内です。(行政不服審査法14条1項)
支部審査会は、審査請求を審査のうえ、原処分取り消し、請求棄却または請求却下の裁決をおこない、裁決書を審査請求人に発送します。(地公災法51条5項、行政不服審査法40条、41条、42条)
●公務災害は、公務遂行性と公務起因性から判断されます。
〈公務遂行性〉
公務遂行性とは、任命権者の支配管理下にある状況で災害が発生したことをいいます。職務遂行上必要な研修や訓練をおこなっている最中に負傷した場合は公務災害となります。
公務を中断してトイレに言ったり水を飲みに行ったりする途中に負傷した場合でも、これらは生理的に必要な行為であり、職務に通常ともなう合理的な行為であるから、公務災害となります。休憩時間中でも同様です。しかし、勤務時間中でも職場を離れ、私用電話中に負傷した場合は公務災害とはなりません。
〈公務起因性〉
公務起因性とは、公務と災害との間に因果関係が認められることをいいます。
学校の給食施設の給食による食中毒も公務災害となります。また、施設に欠陥があれば、休憩時間中の私的行為であっても公務災害となります。
出張中であっても、宿泊先のホテルで泥酔して階段を踏み外したとか、ホテルでチェックインした後に私的な飲食で外出し、そこで負傷した場合などは、公務起因性は認められません。また、学校で宿直勤務をする場合、その時間中は時間的に場所的に拘束されることになりますが、テレビを見るなどの自由行動をしている最中は公務災害となりません。
Q98 措置要求について教えて下さい
●措置要求制度とは
これは地方公務員法46条に規定があり、職員の給与、勤務時間その他の労働条件についての改善などを人事委員会に対して要求することができる制度です。措置要求できるのは、一般の教職員の他、条件付採用期間中の初任者、臨時的任用職員、会計年度任用職員も要求できます。
●職員が要求できるのは、給与、勤務時間その他の勤務条件に関することです。
・措置要求できること
給与、旅費、勤務時間、休日、休暇、部分休業、執務環境、福利厚生、安全衛生
・措置要求できないこと
職員定数の増減、予算の増額、行政機構の改廃、条例の提案、勤務成績の評定制度
●措置要求の手順は次の通りです。
①職員による措置要求
人事委員会又は公平委員会の規則により、職員は書面により措置要求を行います。
②措置要求の審査・判定
人事委員会又は公平委員会は、調査の後に口頭審理その他の方法により審査を行います。
審査後の判定としては、要求の全部または一部を認める、またはすべてを認めない、のいずれかとなります。
③判定に基づく勧告など
人事委員会又は公平委員会は、判定の結果に基づいて、その権限に属する事項については自らこれを実行します。
たとえば、人事委員会規則で定めているものは、初任給、昇格及び昇給の基準などです。
人事委員会又は公平委員会の権限に属さない事項については、当該事項について権限を有する地方公共団体の機関に対し必要な勧告を行います。
人事委員会又は公平委員会の審査・判定の手続、およびその結果執るべき措置に関して必要な事項は、地公法第48条の規定に基づいて、委員会規則で定めなければなりません
●措置要求はできるだけ具体的な内容で行うことが大切です。それによってはすぐに解決することがあります。川口市や越谷市などでは、労働安全衛生体制の確立のために「衛生委員会」の設置を求めて措置要求したところ実現しています。行政には「法例遵守」義務がありますので、予算などがないなどの理由でこれを断ることはできません。但し、超過勤務時間などのように法的な解釈が分かれる事案については棄却されることがあります。しかし、川口市の組合員6名が行った超過勤務の解消を求めた措置要求については、厳密な調査を実施して、「超過勤務は存在した」と認めながら、その要求は認めないという不当な最終判定をしました。これに対して、3名の組合員が取消を求めて裁判所に訴訟を起こしました。
Q99 「労働安全衛生法」について教えて下さい
●教職員と労働安全衛生法(以下、労安法)
この法律は労働者(教職員)の安全と健康を守るための「最低基準」の法律であり、学校や教職員もこの法律の適用下にあります。
また、これに違反すると事業者側(教育委員会)には6ヶ月以下の懲役、又は50万円以下の罰金(労安法20~25条)が科せられます。また、実際の行為違反者と事業者に科せられる両罰規定(労安法122条)もあり、厳しい内容となっています。
●労安法と学校保健法の関係
これまで労安体制がすすまなかった主な原因は、旧文部省が意図的に学校保健法と混同させ労安法の適用を怠ってきたり、各市区町村教育委員会が一校あたりの教職員数が50人未満であることを理由に無視してきたことにあったといえます。
学校保健法の目的は「学校における保健管理、および安全管理に関して必要な事項を定める。児童・生徒・学生または幼児並びに教職員の健康の保持増進を図る。もって、教育の円滑な実施とその成果の確保に資する」とされており、特別な機関による監督基準、事業者の責任体制、改善のために必要な規定はなく罰則規定もまったくありません。こうした点からも、教職員の労働安全衛生環境等の整備については労安体制を確立し推進させることが大切です。
●学校での労安法推進のための法的根拠
1995年4月の国会答弁で学校における労安法の適用を認め、その後2005年10月の特別国会で「学校教育の場で労働安全衛生の必要性についてその指導徹底を図る」との付帯決議がされ、翌2006年4月3日に文科省はこの付帯決議の徹底を図るための通達を各県教育委員会に出しています。
この通達では教職員の過重労働の防止対策やメンタルヘルス対策を重視したものとなっています。さらに2007年12月6日付けの文科省通達では、2008年4月から50人未満の職場においても面接指導等が義務づけられるなど、過労死ラインにある教職員に対する対策は急務であり、具体的に実行させるためにも各市区町村の教職員組合の役割が求められています。
2016年度より、労働者に対してストレスチェックの実施を事業者に義務づけました。
●労働安全衛生管理体制の確立と教職員組合の役割
市区町村教育委員会を事業者とする小・中学校においては、その服務・監督権の実施主体として、すべての教職員に責任をもっており、少なくとも行政区単位に労働安全衛生体制をとることは当然です。よって50人未満の学校においても市区町村を一単位として見ればこの法律を適用することには何ら問題は なく、労安法23条の2項には「関係労働者の意見の聴取」が定められています。実際に、川口市、草加市、越谷市などはすでに体制を確立して実施しています。また、いのちと健康を守るための労安法推進のためには教職員組合の存在は決定的です。
●労働安全衛生管理体制の具体的なすすめ方
まず、安全衛生推進のための管理規定の制定が必要です。そのため市区町村教育委員会と教職員組合が労安法の精神である労使対等の原則に立って協議を行い、労安法の内容を上回る管理規定の作成をめざすことが大切です。
次に管理規定が制定されたら、総括安全衛生管理者、衛生管理者、産業医を選任し、労安法の施策を効果的に推進するための組織を整える必要があります。教職員が50人以上の学校であれば労使同数の「衛生委員会」の設置が義務づけられており、50人未満の学校でも「衛生推進委員会」などを設置してとりくむことができます。
●これまでの埼教組の長きに渡る要求により、2020年4月現在、労安法に基づく負担軽減検討委員会を設置した埼玉県内の市町村教育委員会は51市町、出退勤記録を客観的な方法(ICカード等)で記録をとるようになった市町村教育委員会は2020年12月現在、さいたま市を除く59市町村となりました。残りの3市町についても2021年度中に整備される予定です。
●2020年8月1日現在で「働き方改革基本方針」を既に策定している市町村は、さいたま市を除く62市町村中31市町村にのぼりました。残りの31市町村からは、2020年度中に策定予定と県教委に対して報告がなされています。
●2020年度地公労賃金確定交渉において、県教委は「労安法に基づく衛生委員会の設置が努力義務の学校について、その必要性を改めて周知するとともに、各教育事務所の指導主事等に「働き方改革推進担当」を任命し、優良事例の共有化などを行うことで業務改善を進める」と回答しました。
埼教組青年部が2020年度に実施した実態調査アンケートによれば、青年教職員のおよそ8割が、2019年9月に策定された「埼玉県 学校における働き方基本方針」に沿った働き方改革が勤務校で行われているかどうかという質問項目において、「行われていない」「実感がない・わからない」と回答しました。これに対し、県教委は「「学校における働き方改革」については、未だ十分とは言えず、より一層取組を強化していかなければならないと考えております。今後も、教育局全課及び各教育事務所において、学校に対して業務削減できるものはないか、引き続き検討するとともに、市町村と連携・協力を図りながら、学校における働き方改革が一層推進するよう努めてまいります。」と回答しました。
教職員の働き方を抜本的に改善するためには、教育予算を増額し、教員増をすることですが、衛生委員会を機能させ、学校単位や市町村単位で業務負担軽減を検討し、一人あたりの仕事の総量を削減することも重要です。